だから、彼は。4
「何の用だ?僕は本を読むのに忙しいんだけど」
やはり、あの時とは違う。まず攻めるべきはそこだろう。
「別に偽らなくてもいいんだよ。私には、一度見せてるんだし」
早見君は驚いたようだ。どうやら自覚はなかったらしい。
「……それだけか?なら、俺は帰る。」
まずは、本性を引き出すことには成功した。彼が普段は隠している『俺』の方を。
読書を邪魔された時だけに出るあの『俺』とは、つまり本当の性格と=だったわけだ。
月夜ちゃんはずっとそれにずっと前から気づいていたそうだ。勿論、多大な時間を共に過ごしてきた羽衣ちゃんも同様だろう。私はと言うと、最後の最後まで気づかなかった。
理解している者と理解していない者との違いが、私と彼女達とを分ける一つ目の壁だそうだ。
「……別に、本を読まなくてもいいんだよ。」
先程以上の驚きを見せる。
「…何言ってんだよ。俺は単に本が好きなだから読んでるだ……
「それが貴方にとっては無理してるってことなんでしょうが!」
彼の言葉を遮って叫ぶ。ああ、やっぱり。本人すらも、自分を理解していなかったんだ。
彼は、本が好きなんじゃない。本に、すがるしかなかったんだ。
そしていつしか、それ以外を信じられなくなった。
周りに押し付けられたイメージが、自分の心よりも強く、自分が染まっていったんだ。
ならば、それは彼にとって、『本物』ではないだろう。彼風に言うならば、比企谷八幡のような感じ。隠して、無理をして、装って、自分すらも、わからなくなる。それが、彼の15年で出来た、壁なんだ。
ペリペリと、その壁が徐々に壊れていくような音を、聴いたような気がした。
ようやく私の言葉を理解したようで、清々しい声を出す。
「例えこれが嘘でも、俺は本を読むのをやめない。やめたくない。ずっと読んでいたい。誰にも迷惑かけてないんだから、別にいいじゃないか。これぐらい。俺には、本しかないんだから」
その瞬間に剥がれたのは、彼の壁ではなく、私の殻だった。そう、あの感覚。自分が自分じゃなくなるような。その感覚。ああ、この前も、ここでこうなった気がするーーー
「甘えてんじゃねぇぞ」
いつもと同じはずの声。だが、重みだけが、格段に違った。
「迷惑なんてどんだけかかってると思ってんだよ。テメェが本を読みたいってのは勝手だけどなぁ、私達を巻き込むんじゃねぇよ!」
早見読は答えない。
「いつもいつも!テメェのために動いてる人間がどんだけいると思ってる?テメェのために、どんだけの時間が使われたと思ってる?テメェの事を想ってくれる人が、どんだけいると思ってる?そいつらがお前のために頑張ってんのはそいつらの勝手だけどなぁ、お前は、そいつらの気持ちを踏みにじってんだよ!意識的だろうが無意識だろうが関係ねぇ!私は、お前を赦さない!絶対にな!」
言いたいだけ言って、私はその場を去ろうと、早見読に背を向ける形で歩き出す。
早見読は答えない。
違う。何も言えない。
全部、わかっていた事なのだから。いつか、こうなることも。自分が、それを願っていた事も。だから、何も答えられない。
「心なんて読めても、意味なんかない。俺は、どうしようもなく欠けてんだからな。だから、分かっても解らねぇよ。恋心なんてな」
そんな声が、後ろから聞こえたような気がした。
あ、はい。1章、明日で終わりです。
金曜日から来週の木曜日までは特別編をやりたいと思います。一話500字程度の短いやつです。
ここまでの自己満作品を楽しみにしてくれている読者がいる事に、いつも支えられています。
それでは、引き続きお楽しみ下さい。
あ、先に言っておきます。
金曜日以降の2章からは、毎日ではなく月水金曜日の投稿になります。ご了承下さい。




