天才、早見読。
早見読は天才である。
彼を知る人間の9割はそう言うだろう。もっとも、その才を知る前に殆どの人間は離れていくのだが。
昔から大抵のことは人並みを遥かに凌駕するレベルで出来た。
だが彼は、ほとんどの物事において手を抜く。例えば学校での生活。授業はほとんど聞いておらず、ずっと本を読んでいる。教師が彼を名指した時など、「読書の邪魔をしないで下さい」と睨まれる事になる。
体育は、大抵見学しており、たまに授業に出たと思えば、ストレスの発散に周りの生徒が手出しできないレベルで、動いてみせる。テニス部をテニスで弄ぶ事もしばしば。
また、彼は人間関係においても手を抜いている。彼は基本的に他の人間とは関わらない。彼の幼馴染の活発なバカ、赤羽羽衣、趣味が高じて仲良くなった如月月夜。この二人は、彼と同じ文芸部に所属しており、彼と関わる家族以外の人間だと言って過言ではないだろう。
彼は無気力だ。
その才が故に何事も面白く感じられない。それを鑑みれば彼があれほど無気力なのはしょうがないことなのだろう。才能を与える事は、向上心を奪う事と等しいのだ。
しかし、何事にも例外というものがあるわけで、それが彼にとっては読書だった。
早見読は加減や常識を知らない。それが現在の異常なまでの読書生活に直結しているのだ。
教師が彼になにも罰を与えないのは、彼がその地域ではかなりの有名人であるからである。なにせ昔から学力、運動共にトップレベル。学校からすれば彼を罰するのはイメージダウンに繋がるのである。
さて、赤羽羽衣、如月月夜は、何故彼と行動を共にするのか。それは本人達すら理解していないように思える。まるで、彼に惹きつけられるかのように、いつのまにか彼のそばにいる。
母性本能でもくすぐられたのか、はたまた彼に誰かを惹きつける力があるのか。それはきっと永遠に分からないだろう。
恋愛とか、勉強とか、そんなものよりも大事なものがある。
彼の、そんな生き方に感化され、彼女達は彼のそばにいる。理由をつけるとすればそう言うしかないと思う。
彼のもつ、唯一のその信念に、きっと彼女達は惹かれたのだ。そして、いつかは水上瑞乃も、きっと。
結論、彼は、天才で、自由で、まっすぐで、そして無気力だ。
誰も、彼を止める事は出来ない。