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 僕にとって水上瑞乃は水上瑞乃でしかなく、どれだけ彼女が変わってしまおうと、彼女でなくなってしまおうと、その事実は変わらないのだと。

 そう、思い知った。

 今も昔も変わらず、彼女は僕の片恋相手だったのだ。

 気持ち一つも通じ合っていない恋愛を、両思いとは言わない。僕たちは互いを口先で愛し合いながら、その実お互いを押し付け合っていただけなのだ。価値観を、生活を、大切を、好きを。

 だからこれからは、お互いに思い合わねばならないのだろう。僕たちは僕たちを、信じ合わねばならないのだろう。

 もう二度と、彼女の記憶をなくさせたりなんか、しない。


 かつて平凡だった彼女から、天才だった僕へ。

 いまだ平凡な僕から、天才と認められた彼女へ。

 失ったものを取り戻すための言葉じゃない。僕らはたしかに恋人だった。でも、過去の話で、過去の彼女だ。今、僕が向き合っているのは、背伸びをして唇を重ねてきた彼女ではない。帰り道を一緒に歩いた彼女ではない。本屋で談笑した彼女ではない。

 そこにいるのは紛れもなく、彼女ではない。


 もちろん、かつて同じ場所で星を見た彼女でなんて、あるはずがない。


 ただ僕が、元カノとの付き合う前のひと時を思い出した、それだけのことで。

 どれだけ元カノと顔の造形が重なろうと、ふとした瞬間にみせる気の抜けた笑顔が同じだろうと、両親も家族構成もDNAも指紋もなにもかも一致しようが。

 記憶の一致率が0%である限り。

 全部全部、彼女には関係のない話だ。


「早見さんも一緒に遊びませんか?」

「遊ばねぇよ。急に連れてこられたせいで、夜までに終わらせる予定だった仕事がたんまり残ってるんだ。少しでも片付けないと」

「ざんねーん、楽しいのに」


 浮き輪をつけてぷーかぷかと浮かんでいる売れっ子作家を横目に、僕はタブレットPCに向き合う。砂が内部に入らないよう、気をつけながら。


 仕事がある、と言ったのは嘘ではない。だが普段から真面目に働いている僕に、現状急を要する仕事も、あるわけではなかった。

 ただ単に、僕は彼女と水遊びに興じたくないだけだ。その隣に、もう僕の席はないから。僕だけの特等席は、とっくの昔に忘れ去られてしまったから。

 それは、彼女の担当編集をやめようとしていた理由の一つでもある。もう彼女に僕は必要ないから。むしろ、変な色眼鏡がない方が好都合かもしれない、と。


 しかしまあ、こうして取材に来てしまった以上、この取材を活かした作品の出版までは付き合わねばらならない。それは多分、僕に果たせる唯一の責任で、僕にできる精一杯の罪滅ぼしだから。

 あれだけ一人ではしゃげるのなら、それこそ僕なんてあってないようなものだろうし。


 仕事を始める前に、メールをチェックする。これはスマホだろうとデスクトップPCだろうと変わらない、一つの習慣となっている。上司からの業務連絡や担当作家からの原稿、あるいは〆切引き伸ばしの懇願たったり、可能な限り早く返信しなければならないものがあるかもしれないから。


『沖縄旅行は楽しんでるかしら?」


 ……マメにチェックしているので、今回の新規メールは一件だけ。それも変なメールだったので、無視していいだろう。


『無視なんて酷いことするわね、相変わらず』


 一体どこから監視しているのか。相変わらずなのはそっちだろうと言いたくなる。

 月夜(つきよ)は普段、メールを送るくらいなら直接話すか電話する、と言うため、なかなか文面でのやりとりはないのだが。というか、多分これが初めてだ。


『ホテルの手配、私がしてあげたんだから。感謝してよね』


 ……なるほど、水上にしてはどうも手際が良すぎると思っていた。裏で手を引く黒幕がいるのなら、納得である。


 でも、どうして? という疑問は残るが。


『この機会に少しでも距離を縮めなさい。私からの、ささやかなプレゼントよ」


 もはや思考すら読んで、一方的にメールを送ってくることはどうでもいいとして。

 プレゼント──一体、どういうわけだ?


『少しは考えなさい。ヒントはあげたんだから』


「……勝手なこと、言ってくれるな」


 僕が考えられるような状況にないことくらい、あいつも分かっているだろうに。

 だって、好きな人と同じ顔をした人も旅行しているんだ。思考なんて、うまくまとまるはずもない。


 まあ久々にまとまった休みをいただいたのだから、沖縄は満喫させていただくが。取材に同行したとはいえ、彼女に僕ができることなんてないだろうし。


 メールを閉じ、僕は途中になっていた原稿のチェックを始めた。

 お久しぶりです。またもや投稿期間が空いてしまったのことについての謝罪はおいておくとして、しばらく頑張って更新するかもしれません。8月まで新人賞に出す予定がないので。。。

 そんなわけで、連日とは言わないまでも週に2、3回を目指してやっていこうかなと(テスト期間は許して……)。

 高校卒業までにこの作品からも卒業しようと思っているので、あと一年弱だけお付き合いいただければ時無は喜びます。お願いします(土下座)。

 あとこれは本作とは全然関係ない宣伝ですが、『いつか君が思い出になったら』ってタイトルの新作はじめました。よければそちらも。自信作ですので。

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