三等星の願い。42
大学には無事受かった。
僕にとってそれは予定調和であり予定調和でしかないのだが、自分の受験番号を見つけた時は、パソコンの前で胸をなでおろしたものだ。柄にもなく。もっとも、一番喜んでいたのは僕の隣にいた瑠美なのだが。
作者の自己満足であった文化祭から一か月後くらいから時は一気に飛び、僕たちはたった今、卒業式を終えた。
「ところでこのラブコメ、一度もバレンタインネタを使っていないのだけれど、欠陥過ぎないかしら?」
胸に花をつけた月夜が、不満顔で漏らした。
「そういうのは番外編とかTwitterとかでやってるから作者的にはやったつもりになってるから大丈夫だ」
「それ、ちっとも大丈夫じゃなくない?」
「私と羽衣のバレンタインイベントが一切描かれなかったのは許しがたい」
羽衣とカンナも口をとがらせている。この二人は地元の大学への進学を決めた。
ちなみに月夜は会社の手伝いをするらしい。大学に行くよりも、その道で生きてきたスペシャリストたちに直接聞いた方が効率的に学べるのだとか。
「ところであなた、出発はいつなのかしら?」
「三日後の朝の便での予定だ」
「……そう」
月夜は寂し気にうつむいた。
僕がここに居られるのも、あと三日。荷物はもうまとめたし、半分ほどはすでに新居に送ってある。本も数冊を残して引っ越しセンターにお任せした。
18年過ごしてきたこの土地とも、もうお別れ。別に永遠の別れってわけじゃない。帰ってきたくなtったら帰ってこられる。
けれど、僕も少しは、寂しい。
気づかないうちに愛着がわいていたようだ。自分の中にこんな勘定があるとは知らなかった。
「お見送り行くからね!!」
「寝坊するなよ」
先日から、羽衣とカンナはよく俺の家に遊びに来ている。それも寂しさの表れなのだろうか。
この二人とも、この土地と同じくらい長い時間を過ごした。カンナはしばらくいなくなっていた時期もあるが、それでもこの二人と離れるのは寂しいと感じる。
しばし、羽衣とカンナと昔の思い出を語った。小学生の時の事、それより昔の事も、いっぱい。
僕たちが話している間、やはり月夜の顔色は明るくなかった。何か思いつめるような表情をしている。
「月夜」
肩を叩くと、月夜は酷く驚いていた。
月夜に視線で、何を思いつめているのか問いかける。月夜とは短いながらも濃い時間を過ごしてきたので、それだけでも通じ合った気がした。
「明日、あなたの時間を私にくれないかしら」




