三等星の願い。33
思えば如月月夜との付き合いも長くなった。
高校に入ってからであったので、他の人に言わせればたいして長くはないのかもしれないが、思い出してほしい。僕は基本的にボッチなのだ。一人を愛し、一人に愛された男。それが僕だったはずだ。だが、高校二入ってからというもの、いろいろとあって一人の時間は減っていった。その原因は何なのかと言われれば、僕は間違いなく月夜だと答えよう。
羽衣との交流も盛んではなかった時期に出会った彼女は、僕の心にずけずけと入り込んできた。なんの迷いもなく、心臓にダイレクトアタックである。はじめこそそれをうっとおしいと思いもしたが、いつしか月夜のしつこさに負け、僕は彼女を止めることを諦めた。無駄なことはしない主義なのだ。
だからこそ僕は月夜のしつこさを嫌というほど知っている。だから、実はひっそりと、今回の件も、いつか僕が折れる日が来るのだろうと感じていた。
しかし、僕にも僕の事情──というか、やりたくない理由というものがある。
僕はもう、あの部に関わりたくないのだ。どうしても、思い出してしまうから……。
「気が向いたら、部室に来てちょうだい。何時でも待っているわ」
そんな僕の心情を察したように、月夜はこれ以上強制はしなかった。だがその瞳には、確信じみた光が宿っている。まるで、僕が来ることは、分かっていると言わんばかりに。
怪しげに微笑む目の奥に吸い込まれる前に、僕は月夜とは別れることにした。
秋の風は冷たい。頬が引き裂かれるような感覚を覚えながら、ゆっくりと自転車を押し歩く。
今は瑠美に頼まれた夕飯の買い出しの帰り道。空は暗くなりはじめ、雲は薄暗い灰色に染まっている。昼と夜の交差点を見たような気分になった。
そういえば、これくらいの季節だった。僕の人生の、分岐点と言える出来事があったのは。
……もう、二年になるのか。時が経つのは早い。
不意に、頭の中に暗いブルーの髪色がよみがえった。さらさらと風になびき、うつむき、目元を抑えている彼女。その嗚咽までもが、未だに鮮明に思い出される。
思わず歯ぎしりをする。
僕がもっと彼女のことを見ていれば、今頃僕らは同じ道路を歩けたかもしれないのに。僕はそれを、奪ってしまった。
それが、何よりも悲しい。
自分のせいで大切なものを、また失ってしまったのだと思うと、どんな青空を見ようと心は晴れない。深く、心の根に刻み込まれた傷は、決して癒えることなどないのだ。
一度深呼吸をして、思考をリセットする。OK、もう余計な事は考えない。
地面を強く蹴って、再び歩き始めた。




