三等星の願い。24
「先輩、今日も来たんですか」
「あいにく僕はお前が思っているより暇なんでな」
「一応受験生ですよね?」
「安心しろ。うちの学校みたいなテストの天さえよければいい学校では僕は最強だから」
実技科目は除くが、それを覗けば僕の通知表に最大評価である5以外が並んだことはない。
「いいですね、天才って」
「親の重圧に耐えかねているお前からすればまあ楽なものだが」
そういうと、由崎は驚いたような表情を見せる。
昼休みにじっと読んでいるくらい本好きなやつが、一日で一冊を読み終えられないはずがないのだ。ならばそれができない理由を、と思いずっと探してきた。
その答えが、これだ。
「お前は親に学校の勉強を強いられている。おそらく、家では休む暇もなく、ずっと。違うか?」
ほとんど虐待だ。こんなもの。子供の好きなことは何一つさせずに、自分たちが思い描いた機械を作り上げる。
僕は、そんなタイプの親が大嫌いなのだ。
「なんで、分かったんですか?」
「勘」
嘘ではない。いくら考えても解らなかったのだから、あとは勘に任せてみようとおもって今日も屋上に足を運んでいるのだから。
「そしてそれの原因が、お前の姉である由崎宇宙だろ?」
じっと由崎の目を見て、説明を求める。
「……私の姉は、とてもよくできた人でした」
勉強もでき、人付き合いもうまい。運動神経もよく、非のうちどころがなかったそうだ。
だからこそ、それが崩れたとき、由崎の両親は狂う。
「高校に入ってお姉ちゃんが勉強についていけなくなった時から、母は「お姉ちゃん見たいになっちゃだめよ」しか言わなくなりました」
もともと、由崎は飲み込みが悪かったそうだ。人一倍やって、ようやく人並み。なのに。
なのに由崎の両親は、姉が出来なかった責任を、妹に押し付けた。その重圧は、きっと計り知れないものだっただろう。
「おかしいですよね。今までさんざん私のことはほったらかしにしてきた癖に、今になってこんなのって」
よくあるはなしだ。由崎の両親は姉にばかり労力を割き、妹には何もしない。姉の出来が良かったのなら、なおさら。
「姉が家から出て行ってからは、さらにエスカレートしました。私の部屋には一切の娯楽物はありませんし、スマホも取り上げられました。本だって、学校においておかないとすぐに没収されます」
悲しそうな目で、由崎は漏らす。
「なら、その責任は姉に取ってもらわないとな」
なので、僕は次の一手を打った。




