三等星の願い。19
「おはよう、早見くん」
目が覚めたら悪魔がいた。小悪魔ではない。正真正銘の悪魔だ。
「先に言っておくが僕は童貞だ」
「あなたが寝ている間に私が奪ったといったらどうするの?」
「少なくともお前とは結婚しない」
そんな場合を考えても、いちいち責任なんて取っ手られるかと言いたいのが僕だ。そもそも一度そんなことをされたら信頼関係は崩れるだろうし、僕は絶対にそいつに対して、結婚や金銭での責任は絶対に取らない。
「そもそもお前はそんなことする奴じゃないだろ」
そして、僕は少なからず月夜のことを信頼している。今目の前にいる僕のベッドにもぐりこんできたこの悪魔がしそうなことは今この状況の写真を撮ってそれを某シスコン社長に送り付けるくらいだろうか。その場合は問答無用で結婚させられそうだけど。如月グループを敵に回すのは、世界の三大タブーの一つと言ってもいい。ちなみに後の二つは瑠美を敵に回すのと僕を敵に回すことだ。なんにしても僕の世界が狭すぎるのは置いておいて。
「でも、写真は撮ったわよ。そろそろ手が滑って兄に送り付けそうだわ」
「僕が社会的にも物理的にも死ぬから絶対にやめろ」
時計を見ると午前5時。あと二眠りくらいして自主休校までもっていきたいところだ。そのためにもこの悪魔は早く魔界に帰らせたい。
「あなたがサボるなら私もサボるわよ」
一体、心を読める設定はどこまで健在なのだろうか。僕としては後数日で終わりにしてほしい。月夜と出会ってからずっと思っていることだが、僕のプライバシーをそろそろ返していただきたい。
「とりあえず、もう少し寝かせてくれ。昨日は頭を使いすぎた」
最近まったく頭を使ってなかったせいか、いまだに疲れが残っている。別に学校で寝てもいいのだが、睡眠の効率が下がるのはできれば避けたい。
「私も眠りたかったのだけれど、あなたの妹のせいで眠るに眠れないのよ」
「ああ、そういうことか……」
普通に考えて、この家に泊まるのなら月夜は瑠美の部屋で眠ることになる。
しかし、僕の妹は僕の妹なだけあって、普通ではない。具体的には、寝相がものすごく悪い。それが原因で、我が家では妹だけ寝るときに隔離されて育っている。昔は家族全員で寝ていたのだが、瑠美だけ僕より五年早く一人部屋を手にしていた。
「じゃあ、僕はリビングで寝るわ」
だが、男女が一つのベッドで眠るという行為は少し危ないので、僕はソファで眠ることにしよう。
「別に何もしないわよ」
「性別が逆なんだよな……」
言い残し、僕は部屋を後にした。




