三等星の願い。18
由崎 文香。
四人家族。姉が一人。両親健在。身長159cm体重49kg。
成績はかなり良く、入試の成績はトップだったそうな。
まあ、そんな感じの優等生の鑑みたいなやつ。ただし、高校に友達はいない。入学以来、学校内で始めてしゃべった相手が僕とか、そんなレベルのぼっち。ちなみに僕は初めて話したのは再来先生だった。悲しい。
休み時間は大体本を読んでいて、その独特な空気のおかげでさらに人が離れていく。なんだか、本格的に僕と同じ人種の匂いがしてきたな……。
「特に変わったところはなし、と」
見たところ、これと言って文芸部への入部を拒む理由はなさそうだった。
一つ可能性があるとするなら、「姉は現在一人暮らし中」という、日常のワンシーンをそのまま切り取ったような文だろうか。姉と何かあったとするならば、妹である彼女にも影響を及ぼす可能性は十分にありえる。
だが、なんにせよ、情報不足が目立つ。これだけでは、仮設も立てられない。
「何にか、気になるところはあったかしら?」
月夜が、湯気の立ったマグカップを二つ持って部屋に入ってくる。マグカップからは、高級そうなコーヒーの匂いが漂っていて、集中しすぎて乾いたのどを刺激してくる。
「いや、特に何も。てかお前は帰れ」
コーヒーの入ったマグカップを受け取り、まずは一口。苦い液体がのどを通り過ぎると、少し垂れ下がっていた瞼が持ちあげられる。
「そう、他に調べてほしいことはあるかしら?あと残念ながら今日は泊りなの。瑠美ちゃんとパジャマパーティーよ」
一庶民、しかも同じ高校の同級生の家に泊まりに来るお嬢様が、一体この世にどれほどいるのだろう。
「そうだな、由崎の姉について調べてくれ。可能性があるとするならそこだと思う。今からタクシー呼んでやるから帰れ」
「タクシーを呼ばれるくらいならうちの専属ドライバーを呼ぶから大丈夫よ。帰らないけれど」
かたくなに僕の家に泊まろうとする月夜と、それを何としてでも止めたい僕。どうやっても交わりそうにない、平行線だった。
コーヒーを飲み干すと、月夜はそれをさげにリビングへと向かった。
さて、もうひと頑張り、どうやって由崎を文芸部に入れてやろうかな。
あれから、二時間が経過した。
さすがに疲れて眠っていると、生暖かい感触で目が覚めた。
目を凝らすと、僕の腕の中には月夜がいた。
「おはよう、早見くん」
僕をあざ笑うかのように、悪魔は微笑んだのだった。




