三等星の願い。11
以前、彼に一度だけ告白したことがある。
かなりあいまいなフラれ方をしたわけだが、普通の女子なら次はいけそうと希望を持つべき場面で私が選択した道は「恋人になるのを諦める」だった。
たった数日一緒に過ごしただけでも十分に彼という人間は伝わってきた。
どこまでもまっすぐで、一つのことしか見えない。読書以外に、興味を示さない。それが分かっていたから、私は一度だけの告白で諦めた。もしかしたらという淡い希望をもって、一度だけ。
そして月日が流れていくにつれ、私は彼のトモダチというポジションを手に入れた。最も、彼が私を友達と思っているかはわからないけれど。
彼の横顔を近くで眺められるだけでも、幸せだった。
やがて、水上 瑞乃と出会った。
彼女はまさに天才だった。
人生に、生命に対する倫理観が、常人とはかけ離れていた。言葉の使い方を知っていた。冷たいくらいのリアルが、頭の中に自然に流れ込んでくる。彼女は、文学という面で、小説という場面で、何よりも活躍する経験を、今までの人生で、文字通り死ぬほど味わってきた、そういう人間だった。
そんな天才に、読者である、傍観者であることにこの上ない才能を発揮する彼が反応しないはずがない。
私が知る限り、彼は初めて他人のために動いた。
やがて、彼は彼女を追い求めた。誰よりも自分に刺さる小説を書いた、彼女を。
それが、恋になった。
普段彼の意識の中になかった、無意識にはじいてしまっていた人間という存在を、彼は取り戻してしまったのだ。共通点の多い彼と彼女だからこそ、触れ合うことができた。
いつだったか、彼は言ったらしい。
『分かっても解らねぇんだよ』
と。
私が感じた気持ちと同じだった。
どういう存在なのかを知ることはできても、理解はまるでできていない。
しかし、彼女は違った。知っていた。理解していた。彼の根本を気づくものを。
だからこそ、その氷を解かすことができた。どれだけ思っていても、私には届かなかったものだというのに、いとも簡単に手に入れた。
悔しかった。気持ちだけでは、どうすることもできないのだと知った。
だからこそ今、彼に必要なものが分かった。
あたたかい太陽を失い、再び氷ついしまった心を、とかす唯一の方法。
太陽なんて存在はないのだと、理解させてしまえば、いいのだと。
再びお久しぶりです。
学生は色々と忙しい時期です。すみませんが、分かっていただけると嬉しいです。
夏休みは頑張っていこうと思います。
これからも、彼ら彼女らの物語にお付き合いいただければ幸いです。




