三等星の願い。7
人間が何も食べずに生きていられる時間はとても短い。わずか数日。夏に全盛期を迎えるミンミンうるさい奴らよりも短い。
このことから、僕は『少なくとも』僕が死ぬまでに一度は如月グループのシェフのお手製料理が運ばれてくるだろうと予想していた。もちろんその間もどこかの誰かが監視カメラで見張っているのだろう。つまり、そこでボーイの服をはいで変装しても、もろに筒抜けなのである。なのでその手は使えない。ではどうすればいいのかというと、まずはカメラをつぶさなければならない。こうすればレンズは破壊できるので、この作戦がやりやすくなる。なら追いはぎ作戦つかえないの?という質問が飛んできそうだが、おそらく盗聴機能まではつぶせないので音を出されれば即捕獲である。
つまり、相手に音を出されずに、出される暇もなくせるように、迅速な行動が求められる。求めているのは僕だが。
僕の作戦。それは――ドアの裏側に隠れることだ。
「月夜様、監視カメラが破壊されたようです」
「いくら小型とはいえ、読くんの目が欺けないことは予想の範囲内よ。それより、彼に食事を運ぶボーイに連絡しなさい」
「りょ、了解しましたっ(こういうところ華月様にそっくりなだよなぁ。本人んい言ったら首にされそうだけど)」
おそらく、読くんはドアの裏側に隠れているはず。それに対応するのはただのボーイには無理……予想より行動が早かったからまだ格闘班は飛行機の距離……もう、方法は一つしかないわね。
カツン、カツン、と廊下(実際には見ていないのであくまでも予想だが)に足音が響いた。音をたてないように細心の注意を払って、ドアの裏側に隠れた。
キイ、と音を立てて扉が開く。このあたりの古臭さはさすがは老舗病院といったところだろうか。
帽子を被った、ヒールの少女が部屋に入ってくる。清潔感を保つためか、長いのであろう髪はすべて帽子に収められている。
少女がしゃがんだ瞬間、僕は扉を出ようとした。しかし、これが現実のうっとおしいところで、なかなかうまくいかない。
迷いもない、ただの攻撃。僕の計画は、少女の足に阻まれたのだった。




