三等星の願い。4
「ただいまー」
特に意味もなく、玄関でそう叫んだ。残念な頭を持っていた僕の妹、瑠美は残念ながら僕の高校に合格してしまい、僕とは違い社交的な彼女は毎日のように別のクラブに行き、友達と入部する部活を探しているそうだ。
両親はいつも通りいないし、つまりこの家には一人きり。
家に帰ってきても、特にやることはないし、ベッドに寝転んだ。天井は白いし、枕は柔らかい。いつも通りだ。なのに、そこには抜け殻の僕がいた。
今この部屋には、何もない。本棚も、なにもかも。
夜中にふらふらと外に出ることも増えた。こんな状況になっても頭は働くようで、ちゃんと警察に補導されないような道を選んでいるあたり、流石は僕といったところだろうか。
今頃、きっと月夜たちは僕を探していることだろう。ののは役に立たないし。
いくら如月グラープといえど、僕の家に勝手に入って来れば不法侵入だし、その場合は僕もしかるべき対応を取らせてもらう。
昔は、今頃なにしてたっけな。本当は今頃なにをしてるはずだったんだっけな。
僕は、変わった。
誰から見てもそれは一目瞭然だった。自分でも分かるくらいに、心から変わってしまったのだ。
別に僕自身はそれをなんとも思わない。辛くも苦しくも、もちろん楽しくもない。正真正銘の無感情。無気力。なにもやる気が出ない。
半ば無理やりだが、タイトル回収ができてしまった。初期から比べても、今ほど無気力な僕はいない。
こんな状態でもべったべたのメタ発言ができる辺り、良くも悪くも僕は僕のままだろう。そうだ。変わったのは僕じゃない。周りが変わったんだ。周りが、いなくなってしまったんだ。
周りが、瑞乃が、僕の手から、遠のいただけなんだ。
「あれ、僕なんで……なんで泣いてんだろ」
目元が熱い。悲しくなんてないのに。辛くなんてないのに。なぜだか、涙が溢れて、止まらなかった。
何度拭っても、さらに溢れてくる。どうしようもないほどに、ただひたすらに、僕の体から水分が抜けていった。
「お取り込みのところ悪いけれど」
仰向けに寝転んだ僕の視界に、見慣れた黒髪が入ってきた。
月夜だ。息は酷く切れている。走ってきたのだろう。
「不法侵入だな、通報するぞ」
「残念ながら、瑠美ちゃんの許可があるから無効ね」
あの瑠美、余計なことしてくれやがって。
「私と一緒に来なさい。いいものを見せてあげるから」
そう言って月夜は、僕の体を強引に起こした。
いつの間にか、涙は止まっていて、ただ温かい手に、引き込まれていった。
その夜だ。僕の人生の、転機となったのは。




