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一等星は輝かない。3

 何時間走っただろう。

 無我夢中に、ただただ必死に、足の痛みも気づかぬまま走っている。

 涙が止まらない。呼吸が続かない。身体的な限界だけは、ひしひしと近づいているのがかろうじて分かった。

 決めたのに。二度と失わないと。次こそ守り抜くと。僕はまた、大切な人を失おうとしていた。

 嫌だ。嫌だ。絶対に。もう二度と、瑞乃にはじめましてなんて言いたくない。

 だが、家にもいない、連絡も取れない人をどうやって探せばいい?

 時間がどれほどあるかも分からない。全ては瑞乃の感覚によるものだから。

 近々記憶を失うというのは分かっても、いつそうなるか詳しいことは分からないらしい。

 だったら、僕に出来ることはなんだ?瑞乃を見つけたところで、僕に出来ることなんて、何一つないのかもしれない。

 僕に会わないと覚悟を決めた瑞乃に、無理に会うのは逆効果かもしれない。

 ならそれは、僕のエゴなのだろう。

 意味なんてない。自分勝手に、求めて奪ってしまえばいい。

 思考が上手く回らない。変な考えばかりが浮かんで、あらぬ方向へ体を進めてしまいそうだ。

 いや、これでいいのか。頭が回らない今こそ、僕は自分の思いつきを、信じるべきじゃないのか?

 自分のエゴに。自分勝手に。自由に他人を巻き込んで、操ってもいい。僕は僕のために、僕に従えば、いいんじゃないのか?

 間違った解かもしれない。二度と引き返せないかもしれない。でも、僕は動き出した。


 たまたま見つけたコンビニでチョコを買う。

 糖分補給により頭の回転を潤滑にするためだ。

 エナジードリンクを飲む。

 今必要な栄養素が、簡単に手に入った。

 さあ、しばらくぶりに、本気の脳労働でもしてやろうか。


 今日僕が起きたのは昼過ぎ。普段こんな時間に起きることはないし、昨日が特別疲れていたわけでもない。寝ているうちに、睡眠薬かなにかを嗅がされたのだろう。

 だとしたら、瑞乃はもう近くにいないことを前提にするべきだ。

 今までの瑞乃の行動を思い出せ。事細かく、詳細に、一つ残らず。

 最近の出来事を考えろ。

 佐原を羨むような目で見ていた。月夜に対してもそんな目を向けていた気がする。

 アルバムを食い入るように見たいた。そこに自分はいないのに。

 制服姿の僕や瑞乃を、懐かしんでいた。記憶はないのに。何故なのか。

 そういえば今週はほぼ毎日僕の家に来ていたな。ここにもヒントがあるかもしれない。

 全てをつなぎ合わせて、導き出される答えは一つだった。

『月夜、今すぐ僕らの地元に行けるよう手配してくれ』

 普通の学校生活。それこそが、水上瑞乃の、心からの願いではないのだろうか。

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