一等星は輝かない。2
瑞乃のお願いとは一体なんだろう。
脳をひねってあれこれ考えてみたが、解は出なかった。
今日は泊まっていくというので、瑞乃は風呂に入っていて僕は食事の準備をしている今現在、違和感を感じている僕だったが、その正体もつかめず、ただ黙々と食材を切り刻む。
いつもは一人分しか作らないので、量の違いに少々困惑。ちょうどシャワーの音が止まって、瑞乃が出てきた。
「あれ、お前メガネかけてたっけ?」
濡れて普段の青さを隠し黒光りする髪に、赤フレームのメガネがかけられていた。
「いつもはコンタクトなんです。ここ数年で急に視力落ちちゃって……」
それはおそらく、脳が弱っているからだとおもうのだが、口には出さない。余計な事で瑞乃を傷つけるわけにはいかないからだ。
「私も手伝っていいですか?」
僕の返事を待たずに、瑞乃は隣に立った。
月夜があれば、「新婚みたい」とからかわれたことだろうが、とうの昔に別れたやつの事を気にしてはいけない。
ときおり手や肩が触れ合うが、僕も瑞乃も気にしてはいない。この距離に二人並んでいるのだから自然な事だと自分に言い聞かせながら、僕は棚の奥にしまったカレーのルーを取り出した。
それを受け取り、テキパキと食材とともに煮詰めていく姿を見るあたり、瑞乃はかなりの料理の腕の持ち主だ。
二人でやったからか、さほど時間もかからずご飯をたべれた。
その後はくつろぎ(といっても僕の部屋にテレビはないからゴロゴロしているだけだが)、時計の針がてっぺんを回った頃に就寝。
あれれ?瑞乃は話があるから泊まりにきたんだよね?なんのアクションもないんだけど?それともこれは察しろって事?男からグイグイいけって事なの?
「早見さん」
リビングで寝ていたはずの瑞乃は、気づけば僕のベッドに潜り込んでいた。
「私、もうすぐ消えます」
その言葉の意味は、すぐに分かった。
「貴方と出会えて、嬉しかったです」
消え入りそうなその声に、二度と会えない気がした。
「これが最後かもしれません。もしかしたら消えないかもしれません。全部、私次第ですから」
一言ずつ、声が小さくなっていく。
「もしまた会えたら、その時は、私と結婚してくださいね」
暗闇ではっきり見えたわけではないが、きっと瑞乃は、微笑んだのだろう。
また、失うのか。分かっていたことだ。この病気は再発が多いということは。
それでも、納得できない。
僕たちは、何度も引き離される運命なのだろう。そんなの、あまりにも理不尽すぎないか?
「ありがとう、ございました」
瑞乃は意識が切れたように、コテンと寝入った。
次の日僕が目覚めると、そこに瑞乃の姿は、なかった。




