僕たちの進む道。5
「これもいい、あれもいい……」
一人でぶつくさ呟きながら、瑞乃ちゃんは真剣に家具を選んでいた。
いつもは柔らかい目元も、今はキリリと光っている。
「家具は逃げないから、落ち着いてね〜」
至近距離から声をかけるも、届いていないようだった。
私がスマホを取り出したところでようやく気をこちらに向け、パシャリと写真を撮ったところで慌てたように顔を赤らめ、小動物のように私をポカポカ叩き始めた。
「消してください !!今すぐ!!」
「分かった、分かったから離して!!」
周りの視線も気にせず、あの頃のように笑い合う。早見くん、これを求めていたのだろうか。
今頭に浮かんだ名前をLINEから引っ張り出し、そこに一枚写真を添付してから、さっき撮った写真を消した。
「いや、今早見さんに写真送りましたよね!?何してるんですか!?」
慣れた声で慣れない敬語。いとおかしって感じだね。歯がゆい思いを噛み締めて、私と瑞乃ちゃんは仕事用の長く座っても疲れない椅子を見に行った。
***
僕は通知をメールとLINE入れていない上に、メールはバイブだけだからLINEが届いたのはすぐに分かった。
さらに、月夜は仕事中にLINEなどしてこないので消去法で佐原だと分かった。あいつがLINEしてくるのも珍しいのだが、しかし今は僕の担当する作家でもあるので不思議には思わない。
だが、今は他の作家との打ち合わせ中だったのでそれを無下に出来なかった。
「早見さん、勝手に進めて悪いんですけど、これ原稿です」
「別に構いませんが、もし前みたいなのだったら契約切りますよ?」
まだ出版すれば数字はそこそこ取れるのでそんなことはないのだが、次叩かれればそろそろ覚悟はせねばならないだろう。
「分かっています。だから私も、本気で挑みました」
僕は彼女が喋っている間にも、数ページ読み進めていた。
ふむ、悪くない書き出しだ。設定を詰め込み過ぎず、それでいてしっかり世界観を描く。流石にプロというところだろう。これが新人賞ならこれだけで2次は行くだろうな。
30分ほど。しっかり読み込んでも僕にはそれだけの時間で十分だった。
「校閲に回します。荒技で来月に潜り込ませましょう」
完全復活には程遠いが、しかし出版レベルにはなっていたので勝手にそう判断した。
編集長やその他の編集にも見せなければならないのだが、これならば大丈夫だろう。
「では、今日はこのくらいで」
大した打ち合わせもせずに、原稿のデータをもらい玄関をくぐる。
エレベーターを待つ間にスマホを開き、LINEをみた。
送られてきていたのは一枚の写真。ほがらかに笑う瑞乃の写真だった。
そっと待ち受けにし、足早に階段へ向かった。




