僕たちの進む道。3
私が作家としてデビューすることになった時、彼は言った。『自分が進みたいと思った道に進んだなら、どんなことがあっても自己責任だし、どんなことをしても、自己責任だ』と。
その日から、私はその言葉の通りに生きようと思った。
高校は辞めたし、家も出た。父に生まれて始めて頭を下げ、お金を借りた。
結果として今は成功しているが、もし一冊につき1000部程度しか売れない日々が続いたらと思うと、顔が青くなる。
早見読は、興味が無いようなフリをして、意外と他人を見ているものだ。そして、息を吐くように人の人生を狂わせる。
ある人は彼への恋心に浸り、ある人は記憶を失ってもなお、彼のそばにいる。またある人は……おっと、これ以上先はネタバレになってしまう。神様に怒られちゃ、溜まったもんじゃ無いからね。
ともかく、彼には周りを変えてしまう力があるのだろう。もっとも、私もその力に魅了された一人なのだが。
午前11時、駅前。
そこがあの人との待ち合わせの場所と時間だった。
何故か私は彼女に一番近い立場なのに、今まで会う機会がなかった。それが今日、ついに叶うのだ。
「えっと……佐原彩理さんですか?」
不意に後ろから話しかけられ、少し肩が浮いた。慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのは。
濃紺の髪色に、鮮やかな青目。それに真っ白な肌がよく映える。身長はあの頃と変わっていないのか、少し上目遣いで見つめられ、同性にも関わらずドキッとしてしまった。
イカンイカン。私はノンケ、私はノンケ……
「久しぶりだね!瑞乃ちゃん!!」
不謹慎にもそう言ってしまうほどに、水上瑞乃は水上瑞乃だった。
あの頃と、何一つ変わらない。変わったのは、海馬だけ。それが悲しかったのか、意図せず涙が頬を伝った。
瑞乃ちゃんはしばらく戸惑っていたが、しかし突然「ああっ!」と声を上げた。
「そうだ、アルバムで見ました!!文芸部にいた人だ!!」
先ほどまでの小動物のような微動ではなくて、体を前面に押しやってまくし立ててくるから、高校時代より育ちまくってるマシュマロが当たる。気持ちいぃ……
てか、思い出してくれるのはいいんだけど、多分不良みたいな人って感じで覚えられてるんだろうなぁ。
「じゃあ、早速行こっか!」
あとで旨の感触とか色々早見くんに教えてやろうと思いながら、私たちは歩き出した。




