僕たちの進む道。2
私の小説がとある新人賞で大賞をとってから早半年。改稿も進み、いよいよ来月に発売となっている。
私はかなりの高待遇のようで、印税は10%の契約だ。初版は30000部。早見さんが色々と掛け合ってくれたらしい(これは月夜さんに聞いた)。1冊の値段は1200円で、120×3万で私には360万円も入ってしまう計算である。怖いなぁ……一冊でサラリーマンの年収はレベルとか、怖いなぁ……。
さて、それだけ入るのなら姉が少ない給料で買ってくれた家具の分のお金を返し、新しくそこそこのものを変えるのではないかと思うのだが、なにせ私にはここ7年分の知識しかなく、そのうち3年は病院にいたから何がいいものか分からない。
一度一人でニ○リに行ってみたが、全部等しく柔らかかったし、等しく肌触りが良かったという印象しかない。
360万では私でも違いが分かるような高級家具は買えないし、どうしたものかと悩んでいた。
姉に相談しても、地元でカウンセリングの仕事が殺到しているらしくなかなか私の住んでいる地域には来れない。飛行機の距離をそうぽんぽん移動してたら怖いんだけど。
早見さんも早見さんで、作家と編集者が必要以上に仲良くしてはいけないと考えているらしく、記憶の失う前の私の彼氏は結構塩対応な数日であった。
となると、私が頼れる知り合いは一人なのだが。
『というわけで、一緒に家具を買いに行ってもらえませんか?』
『どういうわけかは言われなくても大体察しはついたけれど、しかし恋敵を誘うとは記憶を失ってもふてぶてしさは変わらないのね』
早見さんがいるときこそ柔らかい月夜さんだが、私と二人となると思うところがあるらしく、こんな感じである。
うむ、困った。
『一人、一緒に行ってくれそうな人に心あたりがあるわ』
数分して、月夜さんからメッセージと共にある人の連絡先が送られてきた。
『佐原彩理』と書かれていた。佐原彩理といえば、ライトノベル作家で、大量のメディア化で日本トップクラスの人気を誇っていたはずだ。Twitterを見たことがあるが、フォロワーは数十万、年収は数千万とか言っていた。
なぜその人が一緒に買い物に行ってくれるのか、私には謎だった。
確かに、大衆文芸の出版は私と同じタイミングなのだが。
しかし、アイコンの微妙に隠された顔写真に、妙な親近感を覚えた。
どこか懐かしくて、暖かい。まるで家族といるような気持ち。
『はじめまして、あるいは久しぶり。佐原彩理です♪』




