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また僕の担当する作家が増えたようです。

 深海真水の担当になってから一週間。あれからなんの連絡もない。

 その間僕は、一人暮らしをしている部屋の奥底にしまってあった一冊の冊子を取り出した。高校一年の時、文化祭で作ったあの冊子である。

 それと、新人賞に応募してきた例の原稿を見比べた(こちらはデジタルだが)

 やはり、違和感を覚える。

 初めからこの原稿は何かが違うと思っていた。この、新人賞を受賞した小説は。

 端的に言うと、今の深海真水、もとい水上瑞乃は才能がない。あの頃と比べて。

 その答えは簡単だった。

 僕自身、この冊子だけだが小説を書いたことがある。その時に力となったのは、やはり自分の経験──それも、負の記憶ばかり。

 負の記憶ばかりあればいいと言うものではない。もちろんそれを言葉にする語彙力は必要だ。

 その点で言うなら、水上瑞乃は17歳以前の記憶がない。その17年の経験は、何より大きいはずなのに。

 恋人(僕)との思い出は勿論、文芸部で過ごしたことも、この冊子のことも知らないだろう。瑞乃が転校してきた理由である、いじめられていた時の記憶さえも。

 それに加え、記憶にある時間が少ないと言うことは、読んだ本も少ないだろう。つまり、語彙の低下。

 それだけあれば十分だと言えるだろう。天才は、堕ちたと。


 一応僕もサラリーマンだ。基本的に土、日と休みのはずなのだが、しかしそれでも忙しい時期というのは絶え間なく働かなければならない。働け細胞。

 つまり、今週は土曜も出勤である。別にそれくらいは構わない。なぜならいつものことだから。

「問題なのは、お前がいることだ」

「たまにのことなんだから別にいいじゃん♪」

 短く切りそろえた茶髪に、黒縁メガネが良く映えている。胸は強調しまくっていて、男なら誰しもが夢に見そうな大きさなのにもかかわらず、ウエストは見た感じ細い。デビューからさらにギャル感を増したのにもかかわらず、以前より大人で清楚な感じを醸し出している佐原彩理がそこにいた。

 今話題沸騰中の人気ラノベ作家、佐原だが、うちとはなんの契約もしていない。その時になったら頼むよと言われている高校時代の友人(一年の時だけだが)である僕に連絡がないことはないと言える。つまり──

「ピンポーン!!無許可!!」

 グッと親指を立てた不法侵入者は、ニカッと笑った。

「とりあえず、用件だけ聞いておく」

 うちはラノベを取り扱っていない。そろそろそっちにも手を出そうかと話をしているが……まさかそれ狙いとは思えないし、話を漏れていない筈だ。

「いやーね?瑞乃ちゃんのデビュー決まったじゃん?だから私も文芸方面攻めてみようかなーって」

 大きなため息をひとつ。僕としても、人気ラノベ作家を取り込めるのはかなりプラスになる。だが。

「お前、十二ヶ月連続刊行の途中だろうが。しかも今シリーズ4本抱えてるだろ?普通に考えて無理だ」

 いくら速筆だからといって、無理をさせるわけにはいかない。

「残念!もう担当の許可もとったし、ここの編集長の許可もおりました〜」

「あのジジィ……」

 まあ、本人がやりたいと言っているのを止めるのもあれだ。やらせて、諦めさせればいいか。

「とりあえず、担当は僕。来週また来てくれ、今週は忙しいんだ」

 今週は忙しいというのは嘘だが、しかしそんなにすぐに契約したいわけでもない。

「あいよ」

 生返事で答え、佐原は帰っていった。

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