2話
「うわー、うーわーー、この着信音は部長だよやべぇよ。って云うか助けて! もう仕事とか行ける状況じゃないし! 助けて! 電話よ念力的な彼是で繋がれ! 無理か!」
……着信音は消えてしまった。
どうする。視界の制限されたゴミ箱の中で靴下と化したダークマターな宇宙規模で悪臭を放つ俺。誰か助けて。
――あれから、どれだけの時間が経ったのだろう。猛烈な悪臭には慣れたのか麻痺をしたのか幾分平気にはなってきたのだが、今の状況は変わらない。この先の展開に悩んでいると、玄関のある方から鍵を開ける音がした。
「え、誰。俺は天涯孤独だし身内とか居ないし。もしかして物凄い日数が経って警察とか大家さんとか色々降臨ってやつですか? ボクは此処です! ボクハココニイル!」
……ギィィィと木が擦れる扉の音と共に、床をコツコツと鳴らす足音が近付く。
「ちょ、土足厳禁! 止めて! 誰だよ! ……あ、それより助けてマジ俺靴下だから!」
コツコツ、コツコツ、と傍まで近付く足音。上空を見上げると、天井が影に覆われた。……これは人影。この巨体で筋骨隆々な奴は……。
「え、あ、あ、あけみ!?」
ぬぅっと顔を出してゴミ箱の中を見つめるのは、あけみ。あけみと言っても、男である。
――以前、上司に連れられて行ったオカマバーに居た……ゴリラに金髪のカツラを被せ、顔面を金属バットで連打した様なクリーチャー的な男である。あけみはゴミ箱の中の俺を見付けると、ニタニタと汚い笑顔を見せる。
「なんで……なんで、あけみが此処に居るの!? なんで、鍵を持っているの!? なにこれなにこれ!!」
「お宝発見♡(’Д‘)」
不思議な呪文を口走るあけみは、ぬるりと太く毛むくじゃらな腕を俺へと伸ばす。
「靴下(’Д‘)GETだぜー!」
あけみは俺を引き上げると、徐に鼻へと押し付ける。
「すーーーーーーーーーーー(’Д‘)はーーーーーーーーーーー」
「止めて! 止めて! 俺だし! ちょっと臭ってる靴下だけれど俺だし! って云うか何を深呼吸してるの!? なにこのベッドの下にあるイケナイ本を見付けられた様な恥ずかしさ!」
「聖衣(’Д‘)脱衣!」
それは、まるで天使が翼を広げるが如く雄大かつ神々しく舞い上がる、あけみの衣服……。其処には、天使とは掛け離れた裸の仁王様がそそり勃つ。
「変(’Д‘)身!」
……――せかいのすべてが・・・
止まっているかのような現実――……
――俺は、あけみの下腹部へと装着されていた。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!(’Д‘)」




