1話
――気怠い朝、鈍痛が走る俺の眠りを妨げる目覚まし時計のアラーム音で一日が始まる。
嗚呼、まただ。また酔っ払って風呂にも入らず眠ってしまった。睡魔に抗いながらもアラームの設定をした事だけは覚えているが、其処からの記憶が無い。否、其処で落ちてしまったのだろう。
「うるせぇ」
バコン!と音を鳴らせて目覚まし時計のアラームを止める。嗚呼、眠い。今何時だよ。……何処かで酒を浴びたのか、とてつもなく酒臭い。
自分の臭いに吐きそうになりつつも、朦朧とした意識を捻り潰す不快音が鳴り響く。
「あー、追撃っすか。マジでうるせぇ……」
バキッ!と目覚まし時計のアラームを止める。
「やべ、強く叩き過ぎた。ってか俺マジで臭ぇ」
目覚まし時計に目をやると、針は九時を指していた。
「やべぇやべぇやべぇ、これ遅刻だし! もう出社時間だし! しかも今日って会議だよな……今から支度をして電車に乗って……絶対間に合わんし! 何だよ起こせよ目覚まし!」
ズキュン!と目覚まし時計を床に叩きつける。
「やべぇなぁ。ほんとマズイ。酒臭いし。取り敢えず着替え……うわ! 靴下臭っ! これダークマターだよ! 臭過ぎて気絶するし! 目も冴え渡るし!」
異臭を放つ汚れた靴下を無造作に脱いで掲げ、叫ぶ。
「お前みたいな臭い奴はゴミ箱行きだ! 汝、自らの存在を懺悔し、滅せよ! ……とか遊んでる暇無いしやべぇし、どうしようドラ〇もん!」
窮地を救う狸の如きロボは居らず、俺はわーわー言いつつも慌てて支度をするしかなかった。
「あーもークビかなぁ。借金もあるし、マジでやべぇし」
嘆きながらも今の恨めしい時刻を確認する為に時計を見る。すると、急に視界がぐるんと回転を始めた。そして、その視界は闇に包まれた。
「え、なに!? なに!? これなに!?」
突然の出来事に慌てながら周囲を見回すと、ぼんやり浮かぶのは曲線を描く黒い壁。空に見えるは汚い自室。
「え、ええ、ええ、あれ、これ、何? って云うか臭っ!! なんなん!? なんなんなん!? あれ、これ上に見えてるの俺の部屋で……この窓際……此処、ゴミ箱っすか!?」
未知の空間に転移したのかと思いきや、それは自室のゴミ箱の中。次第に慣れる暗闇から自分の体へ目を向けると……靴下。靴下となっていた。
「何これ! 体が靴下だし! しかも動けねぇ! 夢か……マジ起きろ俺、目覚めよ俺!」
……しかし、何も起こらなかった。覚めぬ夢であれば、それは紛れもなき現実であり、俺は靴下。事態の把握と猛烈な悪臭で眩暈を起こしそうな状況である。……と云うか、靴下に眩暈なんてあるのだろうか。
堂々巡りな愚考を更に困惑させる出来事が起こる。
――鳴り響く着信音。これは……




