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絶望した世界で僕は旅に出る。  作者: 凍路木
桜の葉が揺れる頃に。
6/8

5、とある家族との出会い。(eins)


「……い!……き……。お……、起……ろ!おい、起きろ!」


断続的にぶつけられる芯の通った声に意識が揺らされ、僕は深い深い眠りから覚醒手前まで引き釣り出された。


目を開こうとする。ただ、目は余り僕の意思に従ってくれず、薄目のような形を取った。目の付近に違和感がある。大方、砂などが原因だろう、自らを覆う皮に荒いそれらが付着したような不快感があった。


声を上げようとする。ただ、喉は乾燥しきっていて、カラカラで、隙間から空気がただ漏れたかのようなそんな虚しい音が、張り付いた痛みと共に現れるだけだった。


四肢にさっさと動けと命令してみる、ただ疲労困憊した四肢は回復のエネルギーと水が確保されず、指令をボイコットしてしまった。もう手を上げることすらままならない。


こうやって僕が四苦八苦していると、瞬間、視界が歪んだ気がした、透明でそれでいて存在があって、そんなものがドバドバと宙から僕の顔へ落ちてくる様子が見えた気がした。


視覚がそれを感知して、1秒も経たないうちに僕の顔へとそれは当たる。冷たくて涼しい、これが水だということに気づくまで少しだけ時間がかかるほどに、僕の頭は疲弊しきっていた。


顔面へと注がれた水は埃を押し流すように、埃のかぶった僕の意識をまた引っ張り出すように強く流れた。


まぶたに引っかかっていたものは流され、目が本来通りの仕事を再開すると、目の前にはやっと光景が広がった。


雲一つない晴天、端に赤みがかって見えた。もう夕方か、それとも朝方か。


「お!起きた起きた。」


そんな光景を遮るように一人の女性の顔が現れる。覗き込むようにして僕を凝視してくる女性の片手には既に空になったペットボトルが握ってあった。


「あ……り……とう……ご……いま……」


ありがとうございます。そう伝えたかった。


女性は僕の声の主旨が上手く掴めず少しだけ首を傾げながら、しかし直ぐ自分自身の内で答えが出たのか僕の視界から一旦消えた。


「楓さん!楓さん!このキラキラしたのって何?綺麗じゃない?」


小学生くらいだろうか、子供特有の甲高い声がする。パタパタと僕の四方から聞こえるあたりこの辺を回っているのかもしれない。


「たくや、それガラスの破片、危ないからあんまり触らないように。」


「は〜い」


従順で無邪気で活気があって生気があって、そんな男の子の声が女性の声に呼応し、会話が行われる。会話が意思疎通が成立する。お互いの言葉を交換して。共感して。そんな当たり前な出来事が当たり前のように目の前で行われた。


久しぶりの感覚だった。


クラスメイトが消えて、恋人が消えて、家族が消えて。最後に会話を聞いたのはいつだっただろう。


軽く1年、僕は1人だった。春夏秋冬を誰とも会わず、1人で過ごした。寂しさに潰されそうな月日だった。自分以外に人間なんてもう誰1人残ってないんじゃないのか、そんな事を常々考え続けた月日だった。


だから……声を出したいと願う。会話をしたいと願う。そうすると隙間風のような音と張り付くような痛みがさっきより少しだけ激しくなった気がした。


「あーわかったわかった、ちょっと待ってろ。」


何かを察したのか女性が再び視界に侵入してきた。片手にはまだ水の入っているペットボトルが握られていた。女性はその封を切ってキャップをゆっくりと外し、倒れたままの僕の口に逆さにして放り込んだ。


え?


入れられたペットボトルはコポコポと音を立て水を僕の体内に強引に流し込んでいく。食道に、胃に、そして気管に入り、砂のような感覚は僕の体内から消えていった。当然代償として大いに咽てしまったけど。


首を振ってペットボトルを落とす、それと一緒に頼りない咳込んだ情けない音と、少々の唾液が地面に放り出された。


「何するんですか!死ぬかと思いましたよ!?」


「でも、声が出るようになっただろ?たった数秒であら不思議、声が出るようになりました。時間もかからないしかもちゃんと元通り、こんな素敵療法があるならほかに手はないでしょ。」


「ただの荒治療とどこが違うんですか!?窒息しそうになったんですけど!?」


確認じみているけれど、僕らは初対面だ。こんな濃い出会いをしていて、今更すぎるとも思うのだけど。苦情を訴えついでにこんなテンポよく会話しいて、今更そんなことに立ち返るのも無粋なことであるのだけど。


「リスクなしで治そうなんて考えが間違ってんだよ少年。どんな薬にも副作用は必ず存在する、オペなんてその最たる例だろう、差し伸べられた手に命を預けるそれが治すということだ。」


「なんか滅茶苦茶なこと言ってません?」


「気のせいだ。」


勝ち誇った顔で僕を見下ろす女性。いや別に下されてどうだとか、そういった趣味は生憎僕は所持していないので申し訳ない。そういえば藤堂がМだったかな。


「それでどうだ?呼吸は?喉は?手足は?目は?」


「手足がまだ…」


女性の少しだけ神妙になったトーンに正直に答えると、女性は数回首を折りながら状況を把握したことを僕に知らせ、僕の手を掴み抱えようとした。


「何しようとしてるんですか?」


僕は女性の行動に疑問を持ち、尋ねると女性はそれこそなぜそんな質問をしたのか僕の胃とがわからないといった感じでこう答えた。


「なにって…そりゃ家に連れ帰るに決まってるだろう。少年。お前みたいなボロボロのやつを置いていけるほどオネーさんは非情じゃないんだよ。」


そう言いつつも女性は僕の肩を組んだ後、フラフラとよろけながら数歩進んで躓き、見事に転んだ。もちろん支えを失った僕も女性に連られて横転する。ここが芝生で良かったと、そう心底思うくらいの勢いだった。


「いってぇ。」


「いいですよ、別に無理しなくたって。僕はここに置いてってください、水ももらったので明日になればきっと足だって動くようになります。」


「寝言は寝て言え、少年。いったろう?治すってことは差し伸べられた手に命を託すってことだ。少年が今できる選択なんてこのまま転びながら運ばれるか、引きずりながら運ばれるかの二択しかないんだよ。」


そんなことを何処か勝ち誇ったような顔で、それでも僕と同じように顔はさっき地に伏したのだけど、女性はそう言った。頼もしいような恐ろしいような。でもこの人になら命を託してもいいかな、なんて僕は思った。この人なら治してもらってもいいかななんて。


だから僕は「お任せします」と呟いたんだと思う。


その様子に女性は笑って「任せろ」と短く答えてくれた。


「たくや!ちょっとこっちに来て手伝ってくれ。」


「はーい」


周りで遊んでいた男の子も加勢し僕はこの二人が住む家へと運ばれた、道中十五回。これが何の数なのかは明記することはあのお人好しの頑固な女性のためにしないでおく。ただ小高い丘に建つ二人の家に着くときは三人そろって擦り傷だらけで、あちこちが汚れてしまっていた。


一階のリビングにあるソファーに僕は転がされ、それ以降の記憶はない。それから僕は泥に沈むようにまた深く眠りに落ちたらしい。次に目を覚した時にはちゃんとベッドの上に僕は運ばれていた。




とても中途半端なとこで区切ってしまってすみません。

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