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雨の日に……  作者: 宵楢萎茶菓
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雨の日の路地裏に

傘を開いて被ったらむしろびしょ濡れになったんだが……あの馬鹿、一体傘をどう使ってたんだ。




あー、やっぱり帰りたくない。ちょっとそこの路地裏で一休みでもするか。

って、あれ?















お前、何してんの?


 何してんの?

 ……ん、話したくないならいいよ。ただ、行く場所ないんだろ? だったらオレも同じだから、一緒にいてもいいか?




 はは、友達、か。そう言ってくれると嬉しいよ。

 あ、隣座っていいか?






 なっ、スカート濡れてるって……ほっとけよ! 色々あったんだよ。悪かったな、傘被ってたのにびしょ濡れで。でもな、これはこの傘貸したやつが悪い。

 あろうことかやつは傘を差さずに持ってこの雨の中を歩いていたらしく、開いたら中に雨水が溜まっていて盛大に弾けたんだ。

 親切心のつもりだったんだろうが、傘の意味はまるでなかった。






 ……案外悪くもないかな、なんて、満更でもない自分がいるんだがな、意外と。






 雨が好きかと言われれば、


 まあ、嫌いじゃないよって感じかな。




 窓ってさ、ある程度明瞭に景色を反射して映すじゃないか。

 オレはあれが嫌いでさ。

 なんでかって? ……そうだな。











 自分があんまり好きじゃないんだよ。




 綺麗な顔してるのにって? ありがとな、嬉しいよ。




 これ、母親と同じ顔なんだってさ。

 あ、お前にまだ家のこと話してなかったか。

 オレは所謂[不義の子]ってやつでな。うん、実の母親はもういないんだ。オレは今、父親のところで暮らしている。いや、いさせてもらっている、かな。

 まあ、不義の子ってつまり、愛人の子ってことなんだけど。不倫の関係から生まれた子ども。

 それさ、父親の家の連中はみんな知ってるわけさ。……オレは当然煙たがられてさ。そのせいで居場所がない。




 ないというより、見つけられない。


 居場所以前の問題に、存在意義を──生きている意味を見つけられないんだ。

 誰も必要としてくれないから、自分がいなくなったって、誰も気にしないし、世界に大した影響もない。そう思ったら、堪らなくなってな。

 自分を否定し続けているんだよ。






 スカート履いて、リボンタイを締めて、女の子らしい格好をしているのに、口調はこんなだろ? これはそれが理由なんだよ。

 まずは性別を否定して、性別を否定するために身につけた男言葉を皮肉って。……そんな生活を繰り返し、繰り返し。

 まあ、辛くないわけじゃないよ。

 だから、姿を映す鏡や窓が大嫌いなんだ。

 でも、考え事をしていると、不思議なことに目は窓の方に向いてるんだよ。我に返ると自分と向かい合っていて、自己嫌悪するんだ。

 わりと窓ってはっきり映すからさ。











 雨は、そんな窓の景色を曖昧にしてくれるだろう?

 小雨で水玉模様作ったり、今日みたいな豪雨だと、ストライプができるな。まあ、もうバケツをひっくり返したみたいな雨だから、縞模様どころの咄じゃないだろうが。

 それでも雨は歪みをもたらしてくれる。

 オレの姿を曖昧にして誤魔化してくれる。




 うん、だからあまり嫌いじゃない。






 しかし、あまり濡れすぎても風邪を引くからな。心ばかりだが、傘に入れ。


 って、うわ、いきなり突き飛ばすことないだろ。嫌なら嫌って言えば別に……











 って、お前……






























 泣いていたのか?






 うん、わかった。











 ごめんな。



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