雨の日にフードの奥で濡れた瞳
おれの望みはただ一つだけ。
ぼくの望みはただ一つだけ。
「心にドアを持たない凡人」──オレっ娘さんは上手いことを言うな、とおれは思った。
心って一体何なんだろう? ……それはおれが長い間ずっと考え続けてきたことだ。
人に嫌われ続けてきたから、人の感情には敏感だった。特に嫌悪とか愛憎とか、負の感情は。
いつからだっただろう。
そういう感情を持った人が近くにいると、その人が具体的に何を思っているのか、頭の中に響いてくるように聞こえてきた。ガンガンと頭が痛くなって、自分の中を踏み荒らされる感覚。
ドアを蹴破られるのと、似ているんじゃないか、とふと思った。
苦笑いが込み上げてくる。
さっきおれは、この屋敷のドアを蹴破って入ってきた。
その点を考えると、おれはただの狼藉者でしかないのかもしれない。
でも、
それでも、
今腕の中にいる女の子を手放すことはできなくて。
ひとりぼっちだったぼくに、雨宿りをさせてくれた子。
ドア越しでも、喜んで話に付き合ってくれた子。
知っているんだ。
いつも帰るとき窓から手を振ってくれている。
「あの子は人間じゃないの。私の[妹]の人形よ」
「人間のあなたと人形のあの子じゃ、友達になんてなれないわ。諦めて。あの子に近づかないで」
ドアを持たないこの人なんかに、振り回される必要なんてなかった。
そんな程度で、諦められるような子じゃないんだ。
おれにとって、
ぼくにとって、
この子は、かけがえのない友達なんだよ、もう。
人形だろうと、何だろうと、
ぼくは!
「ねぇ、目を開けて。まだ、きみの名前を知らないんだ。教えてよ。
また、たくさん話そう? 雨の日には、いつも来るから。
我が儘かもしれないけど、ぼくにとってきみは[唯一人の人]なんだよ。ぼく、他に行き場がないんだ。
だから──
ぼくの、居場所になってほしい。
ねぇ、目を覚まして。ぼくは、きみが、
大好きなんだ」
ぎゅ、と女の子の手を握りしめる。
体温のない手は雨で既に冷えきったぼくの手ではその温度がわからない。気にならない。
それよりも、その子が答えてくれることをぼくは望んだ。
心にはね、ドアがあるんだよ。窓もある。人の心っていうのは、一つの家みたいなものなんだとぼくは思う。
ぼくは、ひとりぼっちの家の中で、寂しくて寂しくて、現実では外を走って逃げ回っているのに、心の中では閉じ籠もったまま、窓の外の景色に焦がれ続けた。
けれど、窓の外の景色はいつも綺麗とは限らないんだ。だって[外]は他の人たちの[心]で溢れている。
ぼくは人に焦がれて人を見つめすぎて、知らなくていいことまで知った。
それで、現実で更に逃げなきゃならなくなっても、ぼくは今、窓を見つめ続けたことを後悔していない。
だって別な[窓]の向こうに、きみを見つけられたから。
許されるのなら、もう一度。
きみの[家]のドアを、ノックしてもいいですか?




