雨の日に閉まったドアは何処へ?
バキッ
その音を私は、理解できなかった。
天才たる私は、何も理解できなかった。
バキッ
ある種、爽快な音を立てて、その傘は折られた。
私が幼なじみに贈った唯一のものが。
最高に最悪な形で、
つまり、
プレゼントした相手に手ずからへし折られた。
骨がチェック柄のビニールを突き破って顔を出している。私を刺し貫こうとする鋭い刃のように、折れた先端が輝く。
「これが僕の、君に対する答えだよ」
告げられた言の葉は、雨音に紛れたノイズだと思いたい。けれど私が聞き違いなどするはずのない、唯一無二の幼なじみの声。
「君は僕のことを馬鹿だというけれど、僕もそれを自負しているけれど、
僕はおそらく他のやつらよりは君の傍らにいることが多かっただろうから、たぶん、今から言うことは間違っていない。
先に言っておくとすれば、僕は君の[幼なじみ]だからこそ、敢えて君を愚弄する。
君は、僕より遥かに馬鹿だ。
そして、僕はそんな君が嫌いだ」
だめだ。言っていることが理解できない。
「大丈夫、僕は不親切だからね、馬鹿の一つ覚えみたいにたくさん言ってあげるよ。何度も繰り返してあげる。君の理解が及ぶまで」
うそだうそだうそだ。
「僕は君のことがこの世で一番大嫌いだよ?」
飄々と彼は言う。この傘が証明でしょう? と、自分でへし折った傘を私に突き出す。
心が震えている。
それが怯えという感情であることを天才である私は残念ながら瞬時に理解した。理解できてしまった。
大嫌い。
嫌いという言葉は聞き慣れていた。何故なら天才の私を僻む周囲の凡人たちがよく口にする言葉だったから。
自称ではなく本当に天才である私にけれど直接手を下すこともできず、とりあえず、単純な思いを表層に出すことしかできない凡人たち。私には、憐れにしか見えなかった。
故に、私は私に向けられる嫌悪の言葉や感情に別段特別な感情を抱くことはなかった。怒りも、やるせなさも。
けれど、
何故こいつが言うとこうも突き刺さる?
何故壊れた傘ごときで私は動揺しなくてはならない?
わけがわからない。天才たる私が[わからない]という状況がわからない。
戸惑う私を見、先程首を絞めた少女がクスクスと声を立てた。明らかな嘲笑を含んで。
「天才が聞いて呆れるね。あんたはまるで子どもだよ。赤ん坊並みに無知で無差別だ。
あんたには雨変人を[馬鹿]という資格はない。
結局天才なのは上っ面だけで、結局は心にドアを持たない教室の無神経な凡人と変わりないんだよ」




