雨の日に傘を差さない馬鹿
雨っていいね。
ん? 傘差さないのって?
肌で雨を感じるのが雨に対する本当の愛し方だというのが僕の持論でね。
馬鹿って言わないでよ、酷いなぁ。
笑っちゃうじゃないか。
ああ、雨って大好きだ。
世界がずっと雨だったらいいのに。
どうして雨は晴れちゃうんだろう?
止まない雨はない、なんて言うけれど、それのどこがいいというのだろう?
ずっとずっと、雨が降っていてくれたなら
僕は、
笑う必要なんか、なくなるのにな。
誰も笑う必要がない世界って幸せじゃない?
ねぇ、雨は愛しくない?
全てを洗い流してくれるよ。ほら、恵みの雨っていうじゃない。
虚栄心を偽った誇りも、
埃まみれの現実も、
無惨に舞い散る血飛沫も、
汚れきった心も、
表せない本音も、
嘘の中に消えそうな涙も。
ああ、ごめんね。
ちょっと疲れただけなんだ。
傘をさすのも億劫なほどに、
君といることや、
笑うことが。
ああ、ごめんね。法螺話だよ。
忘れちゃって。ほら、君も傘なんて捨ててさ。そうすれば、雨が洗い流してくれるよ。忘れさせてくれる。
え? 風邪を引くって?
あはは、馬鹿は風邪を引かないんだよ?
ああっ、ごめん、本当にごめん。心配してくれたんだ。嬉しいよ、ホント。うん。照れるな。
え? 風邪引いたら君が看病してくれるの?
……ふふ、それならやっぱり雨っていいなぁ。
うん? なんでここで止まったの? 薬屋さんだよね。
「馬鹿につける薬はないか」って……本気で訊くの? くっ……ぷははっ!
あ、いやいや笑ってごめんよ。本当に君って面白いね。格言からすると、馬鹿につける薬はないらしいから、わざわざ僕なんかのために無駄な徒労する必要はないよ。
知ってるよって? 手厳しいなぁ。
……え。傘買いに来た? 君、持ってるじゃん。
僕の?
いやいやいらないよ。っていうかこないだ誕生日に君からもらったやつあるし。ほら、チェック柄の結構お洒落なやつ。気にいっているから持ち歩いてるんだよ。
いや、使わないのは別に嫌がらせとか当てこすりとかじゃないから。本当、感謝してるんだよ。僕が傘を差さないのは、主義というか、気分の問題なんだよ。説明したでしょ?
もう、傘持ってるのに傘買おうなんて君もとんだお馬鹿さんだなぁ。
「馬鹿に馬鹿って言われたくない」? ……いや、ごもっともなんだけど、妙にぐっさりくるね……
って、雨止んだ。
いや。
何これ。
いや、君の傘の中ってことはわかってるよ。僕はそこまで知能指数が低いわけじゃない。
へ? 相合い傘?
ぐ、
ぷははははっ!!
ヤバい、今日イチでツボった。あ、"相合い傘"って、くふっ、死語、くくくっ、超久しぶりに聞いたww
あんまり笑うな? ネタ放り込んどいて、無理な咄だよ。
一体君は僕をどれだけ笑わせれば気が済むの? ってか、僕を笑い死なす気?ww
はーあ。いやぁ、死ぬかと思った。笑って呼吸困難とか、実に僕らしい、凄まじく妙ちくりんな死に方だねぇ。
死ぬとか言うなって、原因君だからねww
ヤバ、思い出し笑い。ぷはは。
笑うなって?
無理だね、傘の中じゃ。
妙なとこでカッコつけだなんて……まあ、それが僕というイキモノだからさ。
だから、傘はやっぱりいらないや。
バイバイ。