王国の王子ベルタの日常
少し早めの投稿です。
・王国・
私に訓練がつけられるという報告から一日経った。
つまり、今日から訓練に参加しなくてはならない。
「訓練所まで行くのは初めてだけどこんなに訓練兵がいるのか」
そう呟きつつ、目的の場所へ歩く。
しかし、訓練兵たちは私が視界から居なくなるまで敬礼をしているが、訓練中とか大丈夫なのか……?
そう疑問を抱きつつ、時計の時間を確認する。
一応、十分前に着くように計算して部屋を出てきたから間に合うだろうけど、足取りが重い分遅れているのではないかと気になったのだ。
案の定、数分遅れていたが問題はない。
「はぁ……」
何か用事を作って休むべきだったか……
でも、そんなことをしたら翌日は何が何でも連れていかれたかもしれないし……
正解がわからなかった。
今日の訓練内容を見て諦める事はないだろう、むしろ酷くなるような気がする。
ほんと、どうしようもないな。
~~訓練場~~
「ベルタ王子、待ってましたぞ」
と、セスタ将軍の大声が響く。
訓練兵は敬礼中、今来た人はこの異様な光景を見て硬直するだろう。
訓練前だからという事もあるだろうが。
訓練が始まったらまじめに剣を振るのだろうかと疑問に思ってしまうほどだ。
まあ、あと数分で始まるからその時に分かるだろう。
「王子、念のため怪我をしないように準備運動を」
準備運動?
何ですか、それ。
表情を見て悟った将軍は目を点にして立ち尽くす。
それから、周囲の訓練兵が準備運動とやらを始めて私もそれにならった。
しかし、途中で既に息が上がって倒れそうになる。
私はこれほど体力がなかったのかと思い知らされ、少しは運動をしようとは思ったが、剣を振る必要はあるのか…
もう何度も同じことを考えた。
そして行き着く答えも毎回同じ。
必要ない。
そもそも、剣である必要もないはずだ。
弓、槍、バリスタなど他にも戦う術はあるのだ。
そこまで剣にこだわる理由は……
そう考えて行き着く先は父、つまり王。
軍神バベル。
彼を尊敬し、その才能を子も受け継いでいるだろうという期待感。
しかし、実際は剣を使えない普通の子供だったのだ。
だからこそ、自分がという感じで今に至るのだろう。
あくまで予想だが、可能性は高い。
だからどうしたって感じだけど。
余計なことを考えて剣を振っていたから指示を聞き逃し、喝を入れられる。
それを見た訓練兵の驚いた反応がとても面白かった。
~~訓練後~~
「やっと終わった……」
訓練の参加は午前のみで、午後からはいつも通り勉強となっている。
だが、私は教えられる側から教える側に回っている。
既に学べることを全て学び終え、何もすることが無くなったのだ。
政治に関してはまだ早いという事で知り合いから偶に何があったかを聞くくらいだが、うちの国の文官ってそんなに優秀だったかという疑問で頭がいっぱいだ。
それはともかく、昼ご飯を食べ終え、教え子が待っているであろう部屋に向かう。
自由参加で無料指導という珍しいスタイルで行っているため、来る人数はいつも違う。
無料指導ならいっぱい来るんじゃ?
という事はない。
理由は、普通の学校ではやらない高度な勉強や実技を行っているためだ。
ちなみに、今までの最大人数は三十人、最低人数は二人だったかな。
その二人は初開催の時から受けに来てくれている。
今では十四歳と十五歳で文官育成学校の主席と次席だったかな。
それでもわざわざスケジュールに空きを作ってまで学びに来る
二人とも教える側になれる程の学力と知名度はあるし、文官育成学校に労働をしてはならないという規制もない。
それを一度聞いたとき、本気かどうかは不明だが、地位を得て私の妻になるとかどうとか。
確かに王国では結婚に関して何も決まりはなく、収入が多い人に多くの人が群がる。
ただ、その中でも例外はある。
戦士職、彼らは他の職より収入が多いが、いつ死ぬかがわからないため、基本一夫一妻となっている。
偶に数人の妻を持つ戦士がいるが、自意識過剰な奴だと避けられる傾向がある。
実力が伴っている上級職に就いている人であれば多少避けられることが少なくなる。
だが、そんなリスクを負ってまで一夫多妻をする戦士はなかなかいない。
と考えているうちに、部屋についた。
授業開始は数分後、だが時間を無駄にしないために、今日来ている人の名前を確認する。
サラとアリサは今日もいるし、後はレイスとビスカ、デルトの五人か。
そう思ったとき、見計らったように部屋に駆け込んでくる。
「ギリギリセーーーーフ!!!」
と、叫び周囲を見回してから大人しく一番近くの椅子に座った。
周りからの冷たい目線を見てしまったからだ。
主に女性たちの……
「カイさぁ、そろそろ待ち伏せするのやめれば?」
と、ビスカ。
彼女は十六歳で自分より一つ年下、面倒見がよく年下に慕われている。
ちなみに、カイは十一歳で今ここにいる中で一番年下、やんちゃ小僧で学校でもたびたび問題を起こしていると聞いている。
「という事だ、もうちょっと大人になりなカイ」
ちょっと棘のある言い方で注意をしたのは十二歳のレイス。
彼は貴族系の出身だから、普通はこのような所に来ることは家が認めないが、学校よりこちらの方が自分に合っていると言って、親を無視して週に二、三度私のところに学びに来る。
デルトは十九歳、事故で数年寝込み学力は幼い時のまま、故に自分を受け入れてくれるところで勉強をしたいという事でここに来た。
その事故で声を失ったが、異能と言われる能力が開花し、普通に会話ができる。
しかし、異能を軽蔑する人もいるためここみたいに少数かつ異能を理解してくれる
《まあ、個性だし多少はいいんじゃない?》
念話という異能は、頭に直接言葉を贈ることができる。
「そんなことより」
「すでに数分開始が遅れてますけれど……」
最後に口を開いたのは、サラとアリサ。
サラが十四歳、アリサが十五歳。
彼女たちは姉妹で、そのせいなのか性格、センスなどが全く違う。
今着ている服も、サラが純白のドレスに対し、アリサは漆黒のドレスを身に纏っている。
知識面も、得手不得手が真逆故、試験などで苦労するとぼやいていたのを思い出す。
「まあまあ、もう始めるから」
と笑いながら告げて、授業に入る。
「じゃあ、始めるよ。今日は事前に伝えてあった通り魔法に関しての勉強だね」
魔法は、基本的に生まれ持った魔力がないと使えない事。
まれに、突然変異で魔法が使えるようになる事。
魔法を使える人に魔力を送ってもらうことで時間をかけて使えるようになれる事。
基本的なことは、既に学んでいるはずだからさらっと説明して、普通では学ばない魔法陣に関しての授業をする。
「まず、魔法陣は円形魔法陣、三角魔法陣、四角魔法陣など形が沢山ある。形による違いは何かわかるかな?」
「属性?」
とカイ。
「術の大きさ~」
とアリサ。
「どちらも間違ってはいない、属性によって形は違うし術の大きさでも形は違う。だけどもっと大きな枠で考えると魔力の使用量だね。例えばエアバスター、これは円形魔法陣だけど、火の魔力を入れると三角魔法陣になる、でも水の魔力を入れても円形魔法陣から変化はない。これは、威力が変わるかどうかでジャッジされている。同じ魔法でも魔力の使用量を増やせば、威力が上がり魔法陣の形も変わる」
詳しく説明した後、説明を再開。
ある程度基礎を教えてから、魔法の取得の実技を開始。
週一日だけ特別に魔導士を借りて風系魔法を使って部屋の空気に魔力を混ぜてもらっている。
そのおかげで、私と、サラ、アリサは少しずつ魔法を使えるようになった。
デルトは異能を使うために魔力を持っているので軽めの魔法なら使いこなせるらしい。
と、今日は魔法陣を展開しつつ瞑想する今までより難しい方法でやってみた。
部屋に漂う魔力を体内に吸収し、吸収した魔力を魔法陣として形にする。
魔力を上手く形にできないと、魔法陣が欠けたり、揺らいだりする。
それを見て、助言をしたりして今日の授業を終えた。
週末にも投稿する予定ですが、水、木、金と予定が入っているので、月曜日投稿になるかもしれないです。