下校
放課後、祐介と梶谷は一緒に帰っていた。
「岡田君、帰りましょう」
梶谷がそう祐介に言ったとき、教室がざわめいた。祐介は恥ずかしくもあり、その反面あとが面倒くさそうだなとも思った。しかし、命には代えられないので「そうだな」と言って梶谷と共に教室を出る。確実に誤解されたな、と祐介は確信した。
行きと違い、帰りは少し遠回りをしている。祐介は何か考えがあるのだろうと、何も言わず梶谷についていく。
そんな遠回りをして帰っていることよりも、祐介にと手の問題は、この帰り道に会話らしい会話がほとんどないことだった。
最初の方こそ祐介は、明日、このことをクラスの連中にどう弁明するかに頭がいっており、この沈黙もそこまで気にしていなかった。しかし、一度気にしてしまうとそれから先は気になって仕方がない。だが話しかけようにも祐介には梶谷がどんな話題に興味があるかわからないし、さらに、単に無表情なだけかもしれないが、なんとなく梶谷の顔が暗く見えたので話しかけ辛い。しかし、やはり気まずいので頑張って話しかけてはみるも、会話が長く続かない。
「なあ梶谷さん」
「どうしたの、岡田君」
この帰り道で何回目のやり取りだろうか。そろそろ片手の指は超えている気がする。
「えっと……」
祐介が頭の中から話題を引っ張り出そうとしたその時だった。
「危ない!!」
梶谷から思いっきり後ろに引っ張られる。祐介はバランスを取ろうと数歩下がったが、抵抗むなしく尻餅をついた。
「な、なんだ?」
祐介は尻餅をついたまま前を見る。そこには熊のような姿をした黒いかたまりと、その怪物からかばうようにして梶谷が立っていた。
「岡田君はここでじっとしてて。すぐ終わるから」
梶谷は振り向かずにそう言って、怪物へと向かっていく。その手には刀が握ってあった。
怪物は丸太のような腕から生えた鋭い爪を振り回す。やはり梶谷の細い腕では力負けするのか、受け流しながらの防戦一方で、攻めに転じることができていない。
その様子を見て祐介は、助太刀に入ることができない自分に歯がゆさを感じる。
「はあぁ!」
一瞬のことだった。今まで怪物の攻撃を受け流すことしかできていなかった梶谷が、怪物の爪を刀で受け止め、掛け声とともに勢いよく薙いで怪物を吹き飛ばした。そして吹き飛ばされた怪物は壁にぶつかる瞬間に、不自然に消えていく。
いや、祐介はその感覚をよく知っている。ただ客観的に見たことがなかっただけだ。
怪物は「道」へと飛ばされたのだ。梶谷もとどめを刺すために、怪物を追って「道」へと入っていく。
戦いに魅入られていた祐介も、無意識に「道」へと歩みを進めていた。