能力・魔法・魔術
「……へ? どういうこと?」
能力を魔法として取り出せる。単語ごとにはイメージできるが、知識のない祐介には文章としての理解ができない。
「能力っていうのは、個人の……そうね、魂に刻まれたものなの。だからその能力を使えるのは、それが刻まれた魂を持つその人だけ」
梶谷は事務的な口調で説明する。
「つまり俺の再生能力? は俺にしか使えないってこと?」
祐介は足りない頭でどうにか理解しようとする。
「大雑把に言えばね。対して魔法は、この世で言う物理法則のような、向うに存在するものなら誰にでも当てはまる法則のこと。魔術はそれを利用するための道具ってところ」
祐介が付いてこれるように、梶谷も事務的ではあるが、できるだけ丁寧にしゃべる。
「それで、能力を魔法にするってどういうことなんだ?」
しかし、やはり話自体が複雑なので、祐介は心が折れる前に本題を聞こうとする。
「能力も魔法に従って生まれるものなの。だから、それが刻まれている魂を取り出して、個人的な部分を省略して、もしくは補って一般化してしまえば、後は魔術として誰でも使えるものになるってこと」
梶谷は可能な限り簡潔に説明する。
「能力も魔法……? そして魔術として使える……?」
しかし、魔法と魔術の違いも判らない祐介の思考回路が、遂にショートした。梶谷もそれを見て、一番重要なことだけをずばっと伝える。
「もしも岡田君が魔物に会えば、魂を取られてしまう。そういうことよ」
魂を取られる、その響きは、祐介にも何が起こるのか容易に伝えた。
「……俺は、死ぬってことなのか?」
おそるおそる梶谷にたずねる。
「……そうよ」
ゆっくりと梶谷はうなずく。しかしその後すぐに「でも……」と続ける。
「そうならないために私が守っているの」
その言葉には、ある種の誓いが感じられた。
「そうか…… よろしく頼むな」
祐介は一瞬ありがとうと言いかけたが、どうやら梶谷はお礼を言われるのが好きではないので、この言葉に切り替えた。
「言われなくてもそうするわ」
この返事は言葉を受け取ってくれたと思っていいのだろうか。祐介は悩んだが、きっとそうなのだろうと思うことにした。少なくともありがとうと言った時のような辛そうな顔はしていなかった。