ミルクティー
気分が悪い。今にも吐きそうだ。胸も締め付けられているような感じがする。祐介は、今までに味わったことなのない恐怖に、どう対応すればいいのか全くわからない。体は震え、顔も真っ青になっている。
「ごめんなさい」
梶谷がぽつりと謝る。梶谷は、ただそれだけを言って、祐介の震えが止まるのを待っていた。
「俺は、刺されたのか?」
体の震えは収まった。気分もだいぶ良くなった。しかし、頭の中はまだとっ散らかっている。梶谷の口から直接そうとは聞きたくなかった。しかし、そのことを考えれば考える程に頭の中はそれに支配され、気が付けば口にしていた。
「そう、よ。岡田君は、刺されたの」
ためらいがちに、しかしはっきりと梶谷は頷く。
「そうか」
祐介の心は不思議と落ち着いていた。実際にそうだと言われたおかげですっきりしたのか、むしろあっさりと頷かれたせいで余計に現実感が無くなったのか、どちらなのかはわからない。ただ、祐介が身構えていたような絶望感は無かった。
「……目覚めてから何も口にしてないよね? 何かとってくるからちょっと待ってて」
梶谷はそう言って、おもむろに部屋を後にした。
「お待たせ」
十分ほどして梶谷が戻ってくる。その十分間、祐介は何もすることがなかった。色々と頭の中を整理してみようとしたが、上手く頭が回らなかったので、結局部屋の中を見渡しながらぼおっとしていた。
「どうぞ」
梶谷の手からティーカップが渡される。中身はミルクティーだった。甘さは控えめで、ほどよく温かく、心が落ち着いた。ほんの少しの渋味が、鈍った頭を覚ましてくれた。
「ありがとう」
自然と口から出ていた。何を意図したわけでもなく、気が付いたら言っていた。しかし、そう言われた梶谷は何も言わずに俯いていた。
「……どうした?」
祐介は、何も言わずにただ俯く梶谷のことが心配になる。
「岡田君に、言わないといけないことがあるの……」
梶谷は俯いたままそう言う。
「……なんだ?」
祐介は梶谷の様子から、穏やかな話ではないことを察する。しかし、自分が刺されたこと以上に穏やかじゃない話など、祐介には思いつかない。
梶谷は一度大きく息をして、今まで俯けていた顔を祐介の方にあげる。
「岡田君自身についてと、岡田君にこれから何が起こるのか」
そう言って、梶谷はまた顔を俯けた。しかし、もう一つ、何を話すのか付け加える。
「……そして、岡田君が何に襲われたのか」