目覚め
「自分の名前わかる?」
目覚めるなり祐介は質問をされる。
「岡田、祐介……」
まだはっきりしない頭で聞かれたままに答える。
「よかった。無事みたい……」
質問をしてきた少女は、祐介の答えに安堵の表情を見せる。……質問をしてきた少女?
「もしかして……梶谷さん?」
梶谷とは祐介のクラスメイトである。下の名前はレイ。容姿端麗で成績優秀スポーツ万能だが、その完璧さゆえ一匹狼的な雰囲気を持つ女子だ。そして、祐介の目の前にいる少女はあまりにもその梶谷に似ていた。
「岡田君、私のこと知っててくれたんだ」
少女は肯定の代わりにそう口にする。祐介としては梶谷が自分のことを知っていたことの方が驚きだ。
「ここはどこ……?」
祐介はさらに質問する。まだ頭ははっきりしないが、今寝ているここが自分の知らない場所だということはわかる。見たところ病院や保健室などではなさそうだった。
「私の部屋よ」
「え……?」
梶谷の一言に祐介は耳を疑う。
「ちょ……どうして、そんなことに……」
予想外な状況に祐介は動揺を隠せない。思わずベッドから飛び起きる。
「うぐっ!」
しかし飛び起きた瞬間、胸の下あたりに痛みが走り、思わずうずくまる。
「ちょっと! まだ安静にしてて。まだ傷が塞がりきってるわけじゃないから」
梶谷はうずくまる祐介を優しく支える。
「……ありがとう梶谷さん。もう大丈夫だから」
一度深く呼吸してから、祐介はゆっくり体を起こす。
「……それよりも、どうしてこんなことに?」
起きたらいきなりクラスメイトの部屋の中。しかも女子。どんないきさつがあったか皆目見当もつかない。
「……岡田君、今朝何があったか覚えてない?」
梶谷はなんだか不安そうな顔で聞く。
「今朝は寝坊して……そうだ! 学校は!」
真っ先にそのことを思い出す。別にどうでもいいと言えばどうでもいいのだが、結局学校につけたのかどうかを覚えていない。いや、ここにいる時点で着けていないだろう。
「学校の方は大丈夫。他に何か思い出せない?」
祐介には何が大丈夫なのかよくわからないが、取りあえず言われたとおりにもう一度今朝のことを一つずつ思い出していく。
「寝坊して、遅刻しそうだったから近道したんだ」
「それから?」
「それで、角を曲がろうとしたら……何かにぶつかった? いや……刺された?
」
一つずつ思い出していき、そして思い出した感覚から想起される最悪の事態を、口にした。そして、それを口にした瞬間、今朝体験した全ての感覚が鮮明に蘇ってきた。
「はつ……はあっ……」
胸を貫かれる痛み、身の毛もよだつような悪寒、わけのわからない恐怖……それら全てが身を包む。上手く息もできない。しかし、この感覚のおかげで全てが理解できた。
「…………俺は、刺された」