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路上(1)

「ひどいよ、トリィ――」


 つなぐが、ふくれっ面でぶーたれている。口をヒョットコのようにして、『ぶーぶー』言っている。


「本当にごめん。だって、あの場の雰囲気の中じゃ、ああ言うしかなかったんだよ」


 頭を掻きながら、ボクは弁明した。もう平謝りしかないよね。


「トリィだって知ってるでしょ。あたしが、“飛べる”って――」


 まあ、つなぐがウソを言うはずがないことは、ボク自身もよく分かっている。だけど、そのことを他人に説明することは、やっぱり難しいよ。


「つなぐちゃん、気にすることないよ、あんな人の言うことなんか。きっと、本当に移動しているかもしれないよね、パラレルワールドとかいうので――」


 つなぐの隣で、阿倍野筋さんが、ぷんすか怒っている。こちらも小さい口を尖らせていた。美少女二人(内一人の幼馴染は追風参考記録)が、怒っている姿を見ていると、不謹慎ながらも結構楽しいかも。


 ボクたちはサークル活動が終わって、家路についていた。つなぐとは家が近くだから帰る方向は同じだけど、阿倍野筋さんちはちょっと遠くなのだ。それでに途中まで一緒に帰ることになっていた。


「それじゃ、また明日」


 阿倍野筋さんが、小さくバイバイと手を振りながら小走りで立ち去った。ああいったところは、本当に可愛いと思んだ。ただし、百合要素さえなければ……。つなぐも『またねぇ、みっちゃん!』と大きく手を振っている。


「あああ〜。やっぱり、みんな信じてくれないんだねぇ……」


 つなぐが、頭の後ろで両手を組みながら、溜息混じりに呟いた。


 その横顔を見つめながら、何も言えずにいた。このボクでさえ、いまだに信じがたいのだから。


 ボクは、阿倍野筋さんの後ろ姿が見えなくなるまで、そこに立っていた。何となく、さっきの阿倍野筋さんの言葉を反芻していた。


 パラレルワールドかぁ……。




 背後から声がした。


「ちょっと、お時間よろしいでしょうか一」


 そこには、黒いサングラスに黒スーツという、かなり異様な格好をした男たちが立っていた。これって、いわゆる『メン・イン・ブラック』っていう方々ですか……?


 その男は、見た目五十前後で、いわゆるナイスミドルって感じだ。背が高くて、姿勢が異様にいい。髪はロマンスグレーで、柔らかいウエーブのかかった、いかにもつなぐの好みのタイプだ。


 彼は、東海渉とうかい・わたると名乗った。

 

「はい? 何ですか――?」


 つなぐが、いつもの脳天気な声で応えた。声の主に気がつくやいなや、口元がにやにやしているのが、すぐにわかった。


 彼女のいつもの癖がでているようだ。つなぐは、こういった『ナイスミドル』に目がないのだ。ここは一つポイント上げて、アタックだ! ――とでも考えているのだろう。やれやれ(苦笑)


 そんなつなぐの下心(?)を知ってか知らずか(知るわけないか)、彼は快活にこう、のたまった。


「我らが『悪の秘密結社』に入りませんか?」


「――?」


 ボクは、固まった。何を言ってるんだ、このヒトは。


「一緒に”世界”を手に入れましょう!」


 彼は、両腕を大きく広げて、空を仰いだ。


 げ、完全にイカレてるぞ、このヒト。ボクは、ずずずっと後退った。さすがのつなぐもドン引きだ。(当たり前か)


 隣にいるつなぐも、小さく震えている。ボクも同じように、全身から血の気がひいて行くのを感じていた。本気マジでヤバいかも、この状況。


「ちょ、ちょっと。ま、待って待って……」


 つなぐは、こちらに近づいてくる、その男から離れようと、じりじりと後ずさっている。


 その男は、再び大きく声をあげる。無駄にいい声だから、余計に癪に障るなぁ。


「我々は知っているのです! 素晴らしい能力をお持ちであると――」


 なんだか、バーンと背中にまぶしい光を背負っているみたいだ。気のせいか、効果音も聞こえてきた。なんだか、彼らの世界にはまりそうだ。


 ……て、ふと視線を後ろに逸らすと、彼の周りに同じような黒尽くめの男たちがいた。一人はカメラのストロボをカチカチ光らせているし、もう一人は大きなスピーカーを肩に担いでBGMを流している。な、何なんだ、このヒトたち……。


「その能力が、ぜひとも必要なのです! 世界を我々の物とするために、互いに手を握ろうではありませんか――!」


 ボクは、彼のオーラに圧倒されながら、なんとか呪縛を解いた。そして、残った僅かな力で口を動かした。あうう。


「ええと。能力、能力って言われても、このつなぐって、学校の成績もあんまりよくないし、料理だって苦手だし、得意なのは体育くらいだし、体型もまったく凹凸がないわけで……」


 てな感じで適当なことを言いながら、ボクは逃げ道を探していた。完全に腰が抜けているつなぐをこの場から脱出させるには、隙を見つけててダッシュするしかない。


 ボクは、あらぬ方に指を向けた。


「あ。小粋な格好をした織田信長が、グインサーガ全巻を小脇に抱えて、オクラホマミキサーを華麗に踊りながら、円を描いて東の空に飛んで行くぞ――!」


「え、何だって? そりゃ大変だ――」


 男たちは、一斉にボクの指差す方向に顔を向けた。


 それを見るや、ボクは、一気にダッシュした。


「どこだどこだ」


 ボクは思いっきり走りながら、後ろに男たちの声を聞いていた。


「どこだどこだ」




 小一時間、走ってやっと、ボクは歩みを止めた。は一は一ぜ一ぜ一。日頃あんまし運動してないから、これくらい走っても結構辛いなぁ。これからは、ダイエットも兼ねてジョギングでもしなくては。


 ボクは、大きく息をしながら、走って来た方向に振り返った。あの黒服の男たちの姿はない。うまく逃げられたみたいだ。


 ようやく、ほっと安堵のため息をつくことができた。

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