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サークル(3)

 まず何から説明したらいいのだろう。


 つなぐが、”あの”ことを体験していることは、ボクも実際に確認しているわけではないのだけれど、たぶんそうなのだろう。ただ、そのことを他人に説明できるほど、理解しているわけではないんだけど。


 ボクは、集中している視線をびりびり感じながら、おずおずと立ち上がった。い、痛いなぁ、この視線……。


「あ、あの~……」


 さて、何て説明しよう。


 つなぐが体験している「あれ」は、何となくボクも分かる気がしている。この世界ではない、別の世界にいるような。ボクも昔から感じていたことだから。


「実は、この道玄坂つなぐは、日頃から異世界を体験しているのです――!」


 うんうん、とつなぐが頷いている。目をキラキラさせながら、ボクを見つめている。


「彼女は、異世界に”飛ぶ″ことができるみたいなんですよ。この世界とは、また違った世界へと……」


 一同が一斉に「む〜ん」と唸った。こういった時、どんな顔をしていいのか、分からないのだろう。まあ、当然だけどね。


「分かった! そこまででいい、一条クン――」


 広小路先輩が立ち上がりながら、「あいや」のポーズをした。いわゆる歌舞伎のような、あれ。なんか『ぽぽぽぽぽーん』と効果音が聞こえるようだ。


「分かっていただけましたか、センパイ!」


 突然、甲高く黄色い声が響いた。つなぐだ。


 彼女は胸元に両方の拳を握りしめ、感激のポーズをしている。その瞳にキラキラした星が輝いていた。そのうちバックに花でも背負うんだろう。(あははは)


 と、ちょっと視線を動かしたら、嫉妬に我を忘れそうになっている二人の少女たちがいた。お察しの通り、らいんさんと阿倍野筋さんだよね。


「”飛ぶ“ということは、パラレルワールドを移動しているしているということだね、道玄坂クン! もしくは世界線を移動しているのかっ――!!」


 先輩は、拳を高々と掲げながら、叫んだ。つなぐも一緒になって「うおー」と叫んでいる。何だこの茶番劇。(苦笑)


 なんか適当なことを言って誤魔化そうとしたのだけれど、変な方向に行こうとしている。まあ、それはそれでこの場を収めるには好都合かもしれないけど。


「そうなんですよ、センパイ。あたしってば最近、一瞬ですけど意識が他の世界に行っちゃってるみたいなんですよねぇ〜――」


 と、かなり大胆な発言をしているぞ、この娘は。広小路先輩以外、誰一人として信じている雰囲気はないようだ。


「ね、トリィ――!」


 ま、またかぁ。なんてキラキラした、澄んだ瞳でボクを見つめているんだ。まるで天使のような微笑みをした、この悪魔め。


 で、せっかく離れた、すべての人間の視線が再びボクに集中した。痛い痛い。


 仕方なく、再度立ち上がった。さて、今度は何て誤魔化そう。もう完全に説明するのを諦めた。無理なものは無理だ。つなぐには悪いが、ここは勇気ある撤退=出口戦略の実行が妥当であろう。


「ま、まあ、異世界に行くと言っても、彼女の想像の世界なんですが――」


 つなぐは、目を大きく見開いて、ボクを凝視した。


「ちょ、ちょっと、待って、トリィ! 想像なんかじゃないよ! だって、今日の授業中にもあったじゃない――」


 つなぐ、それは自分からボクに言ってきたことじゃないか。昔から彼女は、自分の体験を、まるでボクも同じように体験しているものだと思い込んでいる。長年の付き合いから、ボク自身もそんなふうに思い始めてしまっているのだけれども。


「ほら、見なさいよ、やっぱウソだったんじゃん。いくら広小路さんに注目してもらおうとしてもムダだから!」


 らいんさんは、まるで勝ち誇ったように、ぐっと中指を立てた。あ、あの、かなり下品です、らいんさん。


「つなぐちゃんが、ウソを言うわけないでしよ――!」


 今度は、阿倍野筋さんだ。らいんさんの言葉が聞き捨てならなかったのだろう。彼女は顔を真っ赤にしながら、大きく机を叩いた。


 もう、一発即発の状態だ。今度は、つなぐの方がおろおろしている。


「あらあら。お二人とも冷静におなりなさい。ここで喧嘩してもしようがないわよ――」


 ここで聖母のような、馬車道先輩が、優しく微笑みながら、二人をたしなめた。やっぱり女神様って、この世に存在するんだなあ。


 若干わだかまりは残ったようだけど、一応この場は収まったようだ。つなぐの件は、うやむやになったみたい。善きかな善きかな。


 その後、今日の本題だった『サイエンス・ラボ』の件を話し合った。議事進行は、当然、馬車道先輩だ。やっぱり、流石だ、先輩。


 で、結局、子どもたちと行う実験は、ペットボトル・ロケットを作って飛ばそう、ということに決まった。パラレルワールドなんていう、マッドサイエンスでなくて、本当によかった。

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