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校庭(1)

 午後の優しい、ゆるやかな光線が少し眩しい。阿倍野筋さんの髪がキラキラと輝いてとてもきれいだ。ここは、学園の校庭。それも、お昼時間という、最高のシチュエーションだ。


「……しかし、あのときは大変だったね」


 隣のつなぐは、お昼ごはんを食べた後、うつらうつらしている。まあ、お腹がいっぱいになれば、眠くなるのは仕方ないよね。それもこんなぽかぽかの陽気なのだから。


 これでは、つなぐの午後の授業は完全お昼寝タイムのようだ。


 そんなたわいもないことを考えながら、ボクは校庭に視線を向けた。昼休みにも野球部やサッカー部の人たちが練習している。さすが元気な人たちは違うなあ……。(おいおい)


 突然、つなぐが目を覚ました。阿倍野筋さんの呼び掛けが、現実世界に引き戻したようだ。


「え――? なになに――?」


 まったく、もう。という表情をして、軽く笑いながら、阿倍野筋さんは長い髪を手櫛ですいた。


「あの人たちが襲ってきた時のことよ……」


 そう言うと、ちょっと表情を曇らせた。


 そういう一つ一つの仕草が、実に女のコっぽいんだよね、阿倍野筋さんは。つなぐなんて及びもつきませんよ。しかし、世間の評価は両者とも稀代の美少女である、ということになっているのだけれど。(笑)


「ああっ――!」


 と、表情をパッと明るくした、つなぐ。


「あの時、ケンカにならなくて、本当によかったね。みっちゃん。心配しちゃって、ちょっと損した気分だったよ――」


 そうなんだ。


 あのあと、闘いは始まらなかったのだ。




 今にもヤツらが襲いかかってくるという瞬間、バカでかい音量でチャイムが鳴った。例のテーマ曲用のスピーカーから聞こえてくるようだ。


「な――なんだ!?」


 身構えたボクたちは、全員飛び上がって驚いた。こんなときに一体何なんだ。


「おおっと、時間だ」


 敵は、皆同時に腕時計を見た。見ると全員金ピカでゴソゴツした、いかにも成金趣味の時計をしている。ただ、宇宙服に腕時計っていうのは……。うう。考えるのは、やめよう。


「では、我々はこの辺で――」


 東海氏は、言った。


 え? ええっ??


「我々の組織は、スケジュール管理が大変厳しく、現時点までが我々の業務範囲なのですよ。残業は一切許されていません。サービス残業なんてもっての他なのです。今や、『経費節減&環境に優しく&電気は大切にね』が時代のトレンドですからなぁ。あははは」


 彼は、高らかに笑った。


「従って、我々の業務は今をもって終了しました。一条通里さんを本部へお連れできないことは大変心苦しいのですが、致し方ありません。我々はここで退散しますが、後程、また別の優秀な団員が選任されるはずです。ぜひとも期待してお待ちくださいませ。それでは、これにて――」


 彼らは、立ち去った。


 はあ???


 呆気にとられて、拍子抜けする一同。本当に一体、何だったんだ、あのヒトたちは。


 ボクたちは、呆然として立ちすくんだ。風が泣いていた……。




「本当に何だったんだろうね。つなぐも、阿倍野筋さんもああいう輩には十分気をつけないとね」


 ボクは、遠い目をしながら、呟くように言った。


「うん。そうする」


 つなぐが、明るく答えた。阿倍野筋さんは、その横で微笑んでいる。


 そのとき、後ろから声をかけられた。


「こんにちは――」


 振り向いたその先に――。


 マジカルセーラちゃんと、聖羅ちゃんが立っていた。




 そう。


 彼らが立ち去った後でも、当然のことながら『融合』した世界は、そのままだった。


 だから、マジカルセーラちゃんや聖羅ちゃん――いや、彼ら全員はこの世界に「いまだに」存在しているのだ。と、言うより、もはや一つの世界となっているわけだ。


 そして、ボクの力は、世界を融合させるだけで、それを元に戻すことはできないらしい――。(その事実は、最近知ったのだけれど)


「トオリ、あなた、最近、飛ばなかった? また変な世界と繋がっちゃったみたいだよ。怪獣が街のあちこちで暴れているって、小耳に挟んだんだけど――」


 う……。痛いところを突かれてしまった。実は、昨日も『ジャンプ』してしまい(今回はつなぐの家の風呂場だったけど、あくまで不可抗力だよ、うん)、太古の世界に行ってきたばっかりなのだ。いや、行ったんじゃなくて、呼び寄せちゃったのか、ボクの力で。


「ちょっと気をつけなよ。どんな世界がくっつくか分からないんだから。あなたは、まさに世界のVIPなのよ。自覚を持ちなさい、自覚を」


 まさにおっしゃる通り。


 ボクの「力」が、あの事件をきっかけにして、世間に広まってしまい、一大ム一ヴメントになったのだ。世間は、そりゃもう大騒ぎだ。(笑)


 そうそう。この前、「TIME」の表紙にも載ってしまったのだ。いやもう、参ったよね。(まるで人ごとみたいだ)


 まあ、ちやほやされるだけならいいのだけれと、それも良し悪しだ。マスコミとかいっぱいやってくるし、TVの特番とかにもあっちこっち引っ張り出されてしまうし。(それで、今ではつなぐの家に緊急避難的に居候させてもらっているのだ)


 そういえば、この前、「政府の者だ」とかいうヒトから連絡あって今度会わなくてはいけないらしい。一体、どうなることやら。


 それにしても、そのうち、『彼ら』もやって来るのだろうなぁ。そのとき、どうすればいいのか、まだわからないんだよね。


 いろいろ考えているうちに、ちょっと疲れてきてしまった。ボクは、もう一度視線をグラウンドに移した。


 外は、いい天気だ。


 こんな日は、ウジウジ考えてても、ちっともいいことはない。


 こんな広い世界なんだもの。


 世界かあ……。


 ふと、この世界がどんどん膨れあがっていくイメージが頭に浮かんだ。そして、ぱぁ~んと弾ける。


 ――結構、頭痛いかも。


 この先、どうなってしまうのだろう?


 その時、つなぐが、快活に言った。


「こんないいお天気の日に、うじうじ考えていても仕方ないよ。そのうち何とかなるっしょ!」


 そして、にこっと笑った。


 うん。そうだ。つなぐは、いつも正解だよ。ボクも微笑み返した。




Fin.

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