公園(7)
誰一人言葉を発しようとする者はいなかった。全員がその恐るべき事実を強く認識できていることは明らかだった。
「それぞれの異なった世界が繋がっている。だから、このように異空間のみなさんがこちらの世界に来られたのでしょう――」
すべての者の心に衝撃が走ったようだ。だが、その事実を知らされても、動揺しない人間がいた。
「ふふふ。ようやくお分かりですか」
例の、東海氏だ。
彼は、すっと一歩前に出て、ボクたち聴衆を見据えた。
一つ咳払いをする。
そして、ロを開いた。
「――我々は、すでにその情報を掴んでいたのですよ。我々の誇る超未来科学推進PTが極秘に開発した超次元歪曲感知器(Super Dimension Distortion Censer)によって、大変名誉なことに『あなた』がピックアップされたのです――!」
東海氏は、ボクを指差しながら、ドーン!と自分で言った。何なんだ、それ。
――え? ちょっと待って。今、ボクを指ささなかったか、このヒト。つなぐじゃなくて、この『ボク』?
続いて、ミチコ・ナカヤマさんが歩み出た。
彼女も盛大に咳払いをした。そして、
「そう。あなたの力があれば、どのような世界へも自由に行けるというわけです。魔法でも超科学文明でも、すべてこの手に入るのですよ――!」
彼女は、顔を真っ赤にしながら、両方の拳を握り絞めて、両腕を挙げてガッツポーズ(?)をした。
「そうそう。あんたがいれば、どこだって行けちゃうんだから! ホント、すごいよねー!」
ウェイ・ブロードちゃんが、天使のような笑顔でそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってよ――」
慌てているのは、そう、つなぐだ。だろうな、やっぱり。
「なんで、トリィなのよっ! あたし、じゃなくて。だって、他の世界に行けるのは、わたしなんだから――」
いや、つなぐさん、そこは否定しておいた方が、自らの安全が図れるのではないでしょうか。……と、言ってもたぶん聞いてくれないのだろうけど。
「いやいや。確かに能力を持っているのは、一条通里さん、だと思うのですが……」
東海氏も、つなぐの勢いに押されて、若干どぎまぎしている。何だか、不安になってきたのだろうか。
「ええ~、そんなことないでしょ。ちゃんと確認してよっ――!」
つなぐは、あくまで自分が『能力者』であると主張したいようだ。
慌てて、手元の分厚い書類をパラパラと確認している。(一体、どこに持っていたんだ?)
「――あ、はいっ。確かに、一条さん、でした。本当によかったです、間違えなくて。どうかご理解下さいませ!」
再度、確認ができたようで、東海氏は安堵の表情をしている。
……そんなやり取りを、横目で見ながら、ボクは考えていた。
以前、公園で実験したとき、何度もつなぐは転んだけれど、一度も『ジャンプ』に成功しなかった。『ジャンプ』に成功した時のことを思い出してみる――。
> その時、ふわりとつなぐのスカートが大きく翻った。
> あ。白……。
> 現状を把握した。つまりだ。つなぐは、バランスを崩して、ボクの方に倒れてきて、両腕でボクの頭を抱えているのだ。つまり、この柔らかいモノとは……。
> 制服(夏ver.)の上着がふわりと浮いた。そのとき、つなぐの白い脇腹が覗いた。うわ。これはこれで、どきどきするなぁ……。
> 二人の胸の感触が、両腕に伝わってくる。うわあ。これは、たまらない。つなぐのは以前にも味わっていたけれど(おいおい)、今回は聖羅さんのも、だ。何だか、ちょっと聖羅さんの方が大きい気が……。
――分かりました。(ぐぬぬ)
すべての『ジャンプ』に、ボクが関係していたのか。それも、ちょっと……と言うか、かなり『恥ずかしい』状況の時に成功していたという――。ごめんなさい。完全に理解しました。
――あれ?
ボクは気がついた。なんか変じゃないか?
「そうだ、そうそう。あなたたちは、ボクと同じように別の世界に現れたじゃないですか。だったら、ボクの力なんて必要ないでしょう――」
ボクは、反論した。
そうだよ。自分たちで行けるなら、自分たちだけで行けばいいんだ。他人に頼るのは、十二の大罪の一つだよ。
今度は、ナカヤマ氏が、答えた。
「ふふふ。実を言うと、我々はあなたの後をずっと追っていたのですよ。だから、我々にはあなたのような素晴らしい『力』はないのです。ご理解いただけましたか――?J
そう言うと、ナカヤマ氏はニヤリとしてアゴに手を当てた。
げ、それってもしかしたら、ストーカーされていたというわけか。そう考えると、身の毛がよだってしまうぞ。
「だからぁ、何回も言ってるんだけど、あたしたちと手を取り合って、世界を手にしようよ~!!」
ウェイ・ブロードちゃんが、高らかに叫んだ。それも、満面の笑顔で。
ボクは真心を込めて、こう答えた。
「お断りします」
彼らは、ふふふと無気味な笑いをした。ぞぞぞ。
「でしたら、仕方ありません。実力行使に移行するまで、です――」
東海氏が、そう言うやいなや、彼らの全勢力が襲いかかってきた。
闘いは今、始まったばかりであった……。




