サークル(5)
次の日。
学校へ行く途中で阿倍野筋さんに会った。
「つなぐちゃん……昨日は、大丈夫だった……?」
突然、立ち止まった阿倍野筋さんが、おずおずと話しかけてきた。なんだかちょっと元気がないようだ。
昨日のこと……? 昨日って、何だっけ? こちらの時間と、別の世界の時間の流れが違うので、かなり混乱してしまう。
ああそうだ。こっちの世界では、つなぐの実験が失敗したのが、昨日だったんだ。
それで、阿倍野筋さんは、ずっと気にしていたみたいだ。彼女の表情を見ると、ちょっと瞳を潤ませている。もし、ここで大きな声を出して驚かしたら、きっと泣き出してしまうに違いない。(いや、しないってば)
「ケータイは繋がらないし、レスもしてくれないし……」
何だか、同じことを繰り返しているような気がするが、まあ気にしても仕方ない。
つなぐは、うるうるしている阿倍野筋さんを慰めている。(あれ? なんだか立場が逆のような……)
それはそれ。これはこれだ。とにかく学校へ急いだ。こんなところでたむろっていると、完全に遅刻してしまうよ。
と言うか、早くサークルに行って、広小路先輩たちに、「事件」のことを報告したいのが本当のところだったんだけれど。
さて、放課後のサークル。
メインテーマだったはずの、つなぐの「実験」には何も触れてもらえなかった。
いきなりキャトル・ミューティレーションだとか人体発火だとか円形脱毛症(何でだ)とかの話題になってしまい、ボクたちだけが取り残されてしまった気分だ。(でも、敢えて気を使っているのかも、みんな)
ボクは、昨日のコトを話すかどうか迷っていた。いざその場になると、どうもね。言いたいんだけど、昨日の「失敗」のこともあるし。
――でも 。
「あ……あの……」
ボクは切り出した。
「……実は、あの後、また行っちゃったんですが……」
部室の空気が、止まった。
しばらくすると何事もなかったかのように、再び部室内がざわめき出した。おいおい。ヒトのこと無視するなってば。
「あの〜、”また”行っちゃったんですけどぉ〜」
今度は、つなぐが、ちょっと語気を強めて言った。
しかし、全然取り合ってくれない。もうハナから信じていない感じだ。
おろおろしているボクたちを見かねたのか、馬車道先輩がすっと立ちあがった。
「みなさん、とりあえず、つなぐさんたちの話を聞いてみましょう」
その一言ですべてが決まった。わ一、神様仏様馬車道先輩さまぁ〜。
「やっぱり、みんな、信じてくれないね。ホント、失礼しちゃうわよね」
阿倍野筋さんは真剣に怒っている。眉毛をちょっと吊り上げて、頬はぷくっと膨れていた。そんな表情も可愛いのは、美少女の特権である。(笑)
ボクたちは、サークル活動が終わって、家路についていた。いつもはボクとつなぐ、阿倍野筋さんの三人なんだけれど――。
「まあまあ。みんなも悪気があるわけじゃないし。すぐに信じろという方が無理があるよ。徐々に謎を究明していければいいんだから――」
広小路先輩が、快活に笑いながら言った。
こんなことになるなんて、予想外の展開であった。
広小路先輩は、わざわざ声をかけてくれたのだ。一緒に帰ろうって。気を遣ってくれているのだろう。
「あらあら。あなたも、本当は信じていないんじゃなくて――?」
馬車道先輩だ。彼女も同じようにボクたちと一緒に帰る途中だった。
先輩は、長くて奇麗な髪を大きく払いながら、うふふと小さく笑った。つなぐの目は、完全にハートマークとなっている。その横で阿倍野筋さんの瞳は、怒りの炎に燃えさかっていた。
「ったく、ウチの広小路さんに取り入ろうとして、いい加減なことを言うんじゃないよ。そんなことをしてもムダなものはムダだって――」
らいんさんは、ブツブツ文句を言いながら、後ろからついてくる。彼女も、口では悪態をつきながらも、内心、心配してくれているのかも。
などと思っているとき――。
何やら、すご一く聞き覚えのあるBGMが流れてきた。なぜかとっても不愉快な気分になっていく。
思い出したくもない、このフレーズ。
心を乱すリフレイン。
そう、それは――。




