宇宙空間(2)
聖羅さんが、つなぐの手を引くように歩き出した。少ししてから、つなぐの制服をじろじろと観察していることに気がついた。
「――その格好、ちょっと変だけど、新型の戦闘服? そうか、今度の戦闘服は軽量化を図って、動きやすいものにしたってわけね。この腰に巻いている布は何? 衝撃を吸収させる素材でできているのかなぁ。あれ? 下は直接アンダーウェアなの? それと、首から下げているべルトは、何の目的があるの? ふむふむ。そうかそうか。なるほどぉ――」
おいおい、何だか自己解決しているよ。それと勝手にス力ートをめくったり、制服のネクタイとか、いじらないでくれますか。真っ赤になって抵抗している本人よりも、こっちの方が恥ずかしいです、はい。
突然、聖羅さんは、ぽむと拳を打った。何かを悟ったようだ。ほらほら。頭の上に裸電球が1個光ってるよ。(これはイメージ映像です)
「――わかった! あなた、連邦のエージェントね? 連邦はこんな新型戦闘用スーツを開発してたんだ。本当、待っていたのよ、連邦の支援を。外宇宙からの侵略を阻止するのは、並み大抵な努力じゃできないから。人員も物資も不足気味だしさ――」
とか言いながら、ずんずん歩いていく。もう、出会うヒトみんな強引だなよあ。
「さあ、ここがブリッジよ――」
聖羅さんがそう言ったとき、目の前のメタリック系のドアが小さな空気音を発しながら開いた。
ボクたちの目の前に展開されたのは、いかにもステロタイプな艦橋風景だった。(まさに期待を裏切らない、お約束通りです、はい)
目の前には巨大なスクリーンが広がっていて、上を下へとクルーがひしめき合いながら動き回っている。それぞれが担当している機器のオペレーションに忙殺されているようだ。不思議な電子音と通信機を通した会話が、まるでハリウッドのB級スペースオペラを見ているようだ。
少し高くなっているところに腕を組みながら、一人の男が仁王立ちしていた。なぜか背中にはあまり必要だとは思われない大きなマントをつけている。宇宙の男の必須アイテムなんだろうか。
そして、その顔をよく見ると、やっぱりだった。
「あれが艦長のキャプテン=コージ・ヒーローよ」
聖羅さんが紹介した。予想通りです。(笑) 先輩って、どの時代にいてもリーダーなのですねぇ。
「敵が先ほどから意味不明なことを言っていますが……。『隠してもムダだ』とか何とか。一体、どういう意味だと思われますか、艦長?」
オペレーターが長くてきれいな黒髪をかき上げながら、顔を上げた。なんとなく予想してたのだけれど、やっぱりそうきたか。
通信担当のスージー・アベノよ、と右隣にいた聖羅さんが小声で言った。大当たり。
「うふふ。敵は何か企んでいるのかもしれないわねぇ……」
キャプテンの隣で、にこやかに微笑んでいる女性がいる。きっと、あれが馬車道先輩だろうな。
あちらが、この艦の副長、シャミー・バーシャよ、と 聖羅さん。うん。知ってました。
「ドクター=ノーテ・ヤーマ、いかがご覧になられます?」
シャミー・バーシャ副長が、後ろを振り返った。後方のシートに、白衣をまとった小っちゃな人影があった。
「きっと当艦を占拠しようと企んでいるのよ! さっさと殲滅してしまいなさい!!」
と、その小っちゃな手足をばたばたさせて息巻いている。やはり、当然いらしゃいましたね、山手先生。(苦笑)
そんなことを考えていたら、今まで宇宙空間を映し出していた巨大モニターの映像が、突然切り変わった。
巨大な画面にアップになったのは、小学生の女のコだった……え! 小学生!?
『――あたし、じゃなかった、ワレワレはぁ、『悪の秘密結社』であるぅ〜。ワタシはぁ、当艦の責任者、ウェイ・ブロードだっ。貴艦は直ちに降伏し、武装解除しなさいっ。これはぁ、無条件勧告であるぅ。承諾なき場合は、直接的な武力行使に移行するが、よろしいかぁ――? (……って、こんな感じでいいの? ふくちょー?)』
とか、なんか格好いいこと言ってるけど、まさに小学生の女のコだった。
すごく恥ずかしいデザインの戦闘服を着ている。身体にぴったりと張り付いた宇宙服(?)で、銀色だか金色だか極彩色を基調としている。
そんな恥ずかしい格好をしてはいるが、中身は完全に小学生の女のコだ。髪は綺麗なブロンドで、頭の両脇で束ねている。まるで、外国製のお人形みたいだ。おまけに、彼らのトレードマークである、黒いサングラスもかけているし。
「トリィ、『悪の秘密結社』だって……」
今度は、左隣のつなぐが囁いた。ボクも確かに聞いたよ。奴らはここでも現れるのか。
「――いかがしますか? 艦長」
阿倍野筋さん、いいや、スージーさんが不安そうな顔をして艦長を見つめている。
そこへ甲高い声を上げながら、一人の女の人が、スクリーンに割って入った。
「ここは、ポジトロン反物質波動メ一サー爆縮砲で一気に敵を殲滅してしまいましょう――!」
あ。この声は――。
「もう少し待ってくれないか、ライン砲術長。もう少し、ヤツらの動きを伺う方がいいと思う」
「分かりました。キャプテンがおっしゃられるのなら……。私はキャプテンの思慮深いお考えに従います」
……らいんさん、ここでもお変わりないご様子で。
「ねえねえ――」
ボクを横から聖羅さんが突っついている。
「あなたたち、彼らを知っているの?」
ボクは、ギクッとして後退った。
「え。あ、あははは……。何のことだか、さっぱり。あんな小学生の知り合いがいるわけ、ないじゃないですか――?」
苦笑しながら、否定した。だげど、その引きつった笑いに、彼女は気づいたやもしれない。
『――あ、今、笑ったヒトがいたなー。いくら背が小さいからって、あたしはちゃんとした責任者なんだからねっー!』
スクリーンの中の小学生が、ぷんぷん怒っている。いや、貴方を笑ったわけではないんですが。
『もーいいっ! じゃあ、実力行使するから、覚悟してよね――!!』
突然、轟音が艦内に響き渡った。程なくして凄まじい衝撃波が襲ってきた。ヤツらが本格的に攻撃してきたみたいだ。
今までのとはたいぶ違って、かなりの衝撃だ。艦橋にいたクルーのぼとんどがバランスを失って倒れ込む。同時に艦橋の照明が落ち、非常用だと思われる薄暗い赤色の簡易照明に切り変わった。
ボクたちも足元がふらついて、重心を崩してしまった。
両脇にいた二人の女のコたちも同様で、慌ててボクにしがみついてきた。両手に花とはよく言ったもので、まさにこれが至福の時と言えよう。
二人の胸の感触が、両腕に伝わってくる。うわあ。これは、たまらない。つなぐのは以前にも味わっていたけれど(おいおい)、今回は聖羅さんのも、だ。何だか、ちょっと聖羅さんの方が大きい気が……。
と、その時、また世界が歪んだ。
――また、来た!
ボクは、両腕の感触にどきどきしながら、意識を失っていくのを感じた。まだこの世界に来て間もないのに。
それに、せっかく登場人物を紹介したばかりなのに……。(おーい)




