サークル(4)
「あっ――! つなぐちゃんっ――!!」
突然、後ろから声をかけられた。
後ろを振り返ると、阿倍野筋さんがつなぐに抱きつく光景が目に入ってきた。
「昨日は大変だったよね。三知、あれからつなぐちゃんのことが心配になっちゃて、よく眠れなかったんだよ――」
いつもはおとなしい阿倍野筋さんは、つなぐのことになると、ぴっくりするくらいよく話す。しばらく会わないうちに人格が変わっちゃったんだろうか? ……って、こちらの時間では、昨日のことなんだよね。今だに信じられないよ。
「それに、ケータイに連絡しても全然返事くれないし、一体どうしちゃったの、つなぐちゃん?」
涙ぐみそうになっている、阿倍野筋さんに抱きつかれながら、バツが悪そうに彼女は頭を掻いている。
つなぐは、いまにも泣き出しそうな阿倍野筋さんの背中を軽く叩いている。阿倍野筋さんは、えっくえっくと咽いでいる。
「ごめん、本当にごめんねぇ……。昨日の夜、トリィと一緒だったから、連絡できなくて……」
え――? 今まで泣き声だった、阿倍野筋さんの顔色が豹変した。
「な、何? 一緒って? 一体、どういうことなの? まさか、二人でいたってことなの――?」
あっ。それは、かなりの地雷だと思うよ、つなぐさん。それ以上はいけないっ。
「ご説明いただけますか、一条くん?」
え? こっちぃ!? それは、あまりにも理不尽過ぎやしませんか……。
慌てて事の次第を説明した。(当然、肝心のことは伏せたのだけれど)
つなぐの親御さんの許可もいただいたし、別に一緒に寝たわけでもないし(寝るってなんだよ、寝るって)、合わせて誠心誠意謝罪した。(何故ボクが……)
しばらくして、阿倍野筋さんはしぶしぶ納得してくれた。これで、ほっ一息というところかぁ。
……しかし、ホントのところ、泣きたいのはこっちだよ、まったくもう。
放課後になった。いよいよ、これからが本番だ。
今日のサークル活動で、若き天才魔導士=ワイドストリート様――ではなくて、広小路先輩たちに相談してみようと思っている。
つなぐも、
「そうそう。きっと馬車道先輩なら、親身になって聞いてくれるよね。だって、先輩ってあたしには超やさしいんだもんっ!」
と、うきうきした様子で、瞳を輝かせた。
ボクは、サークルの面々の前で、起こったこと、すべてを話した。
突然、世界が変わったこと、魔女っコの世界のこと、戦争のこと……そして、「力」のこと。
最初、みんなは半信半疑で聞いていたようだったけれど、ボクがいつもと違ってあまりにも真剣なことに驚いて、ようやく本気で聞いてくれるようになった。
話の途中で、つなぐが簡単な、例の浮遊魔法を披露した。これは、非常に受けがよかった。一部、「どうせ手品でしょ?」と、斜に構えた意見もあったけど。(そう。大道らいんさんだ)
そして、極めつけは、あの奇妙な文字で書かれた、プレート。これにはらいんさんも、目が釘付けになった。
「ねえねえ、このアクセ、どこで買ったの? すごくカワイイじゃん。教えてよ、つなぐぅ――」
いきなり馴れ馴れしい態度で、つなぐに擦り寄っていく。ここまであからさまだと、かえって清々しいなあ。と、いうより、らいんさんって、かなり素直な人なのかもしれない。
「――と、いうわけなんです」
ボクは一息ついてから、ゆっくりと聴衆に目を向けた。みんな活動が停止している。まるで、時間が止まったかのような静寂。
ボクは、こほんと咳払いをしてみた。
すると、一気に時間が動き出した。
「それ、本当のことなの――? つなぐちゃん」
阿倍野筋さんが目をまん丸くしている。いわゆる呆然自失というヤツだな。うむ。
他のヒトたちは他のヒトたちで、みんなリアクションが違って楽しい。こういうときに人間の素性が現われるんだなぁ、って傍観者でどうする。(苦笑)
「つなぐクンの、その力――」
広小路先輩が、眩くように言った。
サークルの部員が、一斉に振り向く。
「――パラレルワールドを旅することができる能力、そう、パラレルワールド・ジャンパーなのかもしれない……」
「パラレルワールド・ジャンパー……?」
全員が、オウム返しのように聞き返す。
「いや、これは、僕の造語なんだけれど、一条くんの話を聞いていると、どうもそんなふうに思えるんだ――」
先輩は一旦、息をついた。
「――並行世界、パラレルワールドのことは話したと思うけれど、君たちの場合は、その並んだ決して交わることのない二つ、もしくは、それ以上の世界を行き来できるんじゃないかと思う。それが随時可能なのか、今の段階ではわからないけれど、もしかしたらそういう現象が起ったのかもしれない……」
なんて鋭い洞察力だ。流石だ、先輩。
そのとき、突然、物音がしたと思ったら、
「あらまあ、それでは、今日の集会のテーマは、その実験ということでよいのかしら? みなさん――?」
馬車道先輩が、立ちあがって、優雅にポーズを決めている。
「せ――先輩っ、突然何を言われるんですか?!」
ボクは、慌てて言った。
すると、馬車道先輩は平然と
「あら。一条くん、当然のことでしょう? 分からないことは、試すのが一番ですよ?」
と、おっしゃった。
ですよねぇ〜、とつなぐは、まるで第三者であるかのように同意した。おいおい、それでいいのかい、つなぐさん。
そんなこんなで、本日のテーマが決まったのだった。




