公園(2)
気がつくと、空気が違っていた。
「あれ……?」
ボクは慌てて上下左右に首を回して、あたりを観察した。
ここはあの街外れの公園だった。太陽が傾いている。ボクたちは、公園のブランコに揺られていた。
「あれ……? ここって……。元の世界ぃぃっ――!?」
つなぐが、裏返ったような声を上げた。
まわりの景色は完全に現代社会、見慣れた町並み。やあ~、魔法だぞ~、なんて言ったら、鼻でふふんと笑われそうな、そんな雰囲気である。(笑)
なんだか、まだ頭の中が、ぼぉ~としてる。まるで、今も夢の中にいるような、そんな感じがする。
「そうみたいだね……」
ボクとつなぐは、少しの間、無言で見つめ合った。いや、変な意味ではなくて。
「……ねえ、トリィ。あの世界……魔法の世界のこと、覚えてる……?」
つなぐが、おずおずと聞いてきた。おそらく本人も半信半疑なのだろう。
いつもボクに異世界のことを、あたかも体験したかのように嬉しそうに報告してくれるのだけれど、今回はさすがにリアル過ぎた。このボクでさえ、完全に実体験としか思えないのだから。
少しの間、どちらともなく、今まで体験したことを話し合った。やはり、二人ともまったく同じ世界にいたようだ。いや、同じ世界を『夢見ていた』のかもしれない。
話には聞いたことがあったけど、何かのきっかけで別人が同じような夢を見ることがあるらしい。ボクたちは、まさにそれを体験したのだろうか……。
――と、そのとき。
「あ、おねえちゃん――」
そこには、あの男のコだか女のコだか分からなかった、美幼児(笑)が立っていた。手にはあの時、つなぐが渡したサッカーボールがある。
そのコは朗らかに笑いながら、こう言った。
「さっきはありがとー、おねえちゃん」
ああ、やっぱり。ボクは合点した。
「あ、ああ。さっきね。うん。さっきさっき。こちらこそ、ど、どうもねぇ――」
つなぐが、ぎこちなく答えた。
あの世界に行ってからかなりの時間が過ぎているように感じていた。こちらの世界と時間の流れ方が違うのかもしれないのだけれど、感覚的には一ヶ月以上経過したのではないかと思う。
おそらく、つなぐもそんな感覚だったからこそ、答え方がぎこちないものになったのだろう。
ボクは、ようやく完全に把握した。
やはり、今までのは、全部夢だったのだ。ボクたち二人して、偶然同じようにうたた寝をして、またまた偶然同じような夢を見たのだ。きっとそうに違いない。いや、きっとそうだ。うん。
まるで禁断のお約束『夢オチ』なのだ。こういうストーリーは、ネタに詰まった作家とか締め切り間際の脚本家しか、やってはいけないというのに。(おいおい)
とすると、魔法の世界も何もかも、初めからなかったんだ。最近寝不足だから、うとうとしてしまったのだな。うんうん。
しかし、なんてリアルな夢だったんだろう。つなぐの、あの『白さ』や『柔らかさ』も、すべてはボクの妄想だったのだろうか……。(それはそれで結構恥ずかしいものだけど)
……なんて。考えていても仕方がない。たぶん夢だったのだ。きっと夢であったに違いない。夢だもんね、絶対。――と思うことにした。
ボクは、自分をようやく納得させることができて満足しながら、ふと胸元に手をあてた。
何がが手に触れた。ボクは反射的にその胸についているモノを見た。
――プレート。
あの学校の生徒は制服がない代わりにみんなこのプレートをつけていた。ボクは、はっきりと思い出した。ミッチィさんの胸にあった、不思議な輝きを持った一枚の金属板――。
血の気が滝のように身体から引いていく。ボクは、身体が硬化してしまったかのようだ。
つなぐは、バイバイと手を振りながら、そのコを見送っていた。
「――やっぱ、夢だったんだねぇ。まあ、そうだとは思っていたけどさぁ。あははは」
つなぐは、ぼくの方を振り返った。天真欄漫な笑顔を見せている。
「あの、さ。これ見てよ、つなぐ――」
つなぐも、一瞬で理解したようだ。
彼女は、ひきつり笑いをしてみせた。だけど、他の人から見たら、泣いているように見えたかもしれない。
ボクの手の中のプレートが、夕陽を浴びて輝いた。
ボクとつなぐは、よろよろと立ち上がり、その公園を後にした……。




