魔法世界(7)
(ここから、あらすじ)
『悪の秘密結社』は、前触れもなく、魔法世界に次々と出現した。
数千単位の師団で構成された、彼らの無慈悲な軍隊は、瞬く間に魔法世界を蹂躙していった。その圧倒的軍事力に、魔法世界の住人たちには、なす術もなかった。
だが、魔法世界の住人たちも、されがままになるような卑屈な民族ではなかった。
誇り高き魔法世界の住人たちは、圧倒的な戦闘力にまったく屈せず、よく戦った。
しかし、物理的な戦力の差は歴然で、大戦が始まってわずかの期間で、魔法世界は急速に勢力を弱めていった。その犠牲は、およそ数十万とも言われた……。
(ここまで、あらすじ)
……と、いうようなことは全然なくて(笑)、ひたすら彼女の説得を聞かされているのだった。
「――だから、何度も申し上げているように、わたくしたちには敵対する意志はないのです。ただ、要求を受け入れていただきさえすれば、それでいいのですが……」
かなり困ったような表情をしてしながら、ナカヤマ氏は言い続けている。
「悪魔よ、この地から立ち去れ――!」
そこには、あのワイドストリート様のお姿があった。
凛々しく、男のボクでさえ格好いいと思えるそのお姿に、ボク以外の女性陣はメロメロになっているようだ。
「おとなしく降伏すればよし、あくまで抵抗をみせるなら、その命ないものと思え――!」
ばーんと、何やら勇ましい効果音が響いた気がした。いや、本当にそんな気がしただけだったのだけど。
「あ、いや、そこまで申し上げているわけではなくて、あくまでも穏便に話し合いをできれば良いと思っているのですけど……」
何だか、事が大袈裟になってきたのを感じたようで、彼女は慌て出した。
「こうなれば、最終魔法しかないか――!」
ワイドストリート様は、彼の言葉に一切耳を貸さず、声高らかに叫んだ。何、その『最終魔法』って……。
つなぐの側にいたセーラさんや、ミッチィさんはハッとして彼を凝視した。
その表情から、ボクはただならぬ気配を感じた。いくら鈍感と言われるボクだって、そのぐらい分かるよ。
「皆の者、わたしの元に集まりなさい――」
ボクの隣にいたミッチィさんは、その言葉を聞くと同時に先輩の元に駆け寄っていく。その俊敏な動きに呆気にとられてしまった。
いつもは、おとなしくて優雅な振る舞いしか見せないのに、やるときはやるものなんだね。
と、ぼぉ~っと考えていたら、ボクとつなぐは出遅れちゃったようだ。ボクたちも慌てて、駆け寄っていった。
みんな足が速いなぁ。ボクはさておき、つなぐは、元の世界にいた頃、全国大会レベルで速かったのに、全然追いつかない。これほどだったら、ウチの学校の陸上部に入れば、絶対エースになれるよ。
と、そんなことを考えながら、必死に走る。
そのとき、小石が目の前にあった。
ああ、危険がアブナイなあ、と、ボクは漠然と思った。
次の瞬間、思いっきり、ボクの隣を走っていた、つなぐがお約束通りに躓いた。
まったく、この娘は、こういうところが抜けているというか、ドジというか、可愛いというか……。いやいやいや、何を口走っているのだ、ボクは。
そんな取り留めもないことを考えていたら、隣から柔らかい物体が覆いかぶさってきた。な、何だ――?
それは、あろうことか、つなぐの『身体』だった。躓いた拍子にバランスを崩して、ボクの方に倒れてきたようだ。
「あ、トリィ! ごめん――!!」
そんな声がきこえたのだが、何やら柔らかいモノがボクの視界を閉ざした。ああ、とても気持ちがいい……。
はっと、意識が戻った。
現状を把握した。つまりだ。つなぐは、バランスを崩して、ボクの方に倒れてきて、両腕でボクの頭を抱えているのだ。つまり、この柔らかいモノとは……。
つなぐって、こんなところも大人になってきたんだなぁ、と改めて考える――ことなんてできるわけがなかった。
ボクは顔が真っ赤になっていくのがわかった。焦って、つなぐの身体を引き離そうとした矢先――。
何か足もとがすくわれた感じがした。
というより、ふわりと浮きあがったようなそんな感覚だ。
ボクは、悟った。視界が見る間に歪んでいく。この感覚は、'あれ'だ。以前、つなぐと一緒に経験した、'あれ'が、こんなときに来るなんて。何と間が悪いのだろう。
視界がぼやげていく中で、ワイドストリート様の全身に青白い雷光が走るのが分かった。
あれが最終魔法なんだ。ぼんやりそう思った。ちゃんと見れなくて、ちょっと惜しいかもね。
こんな時に考えることじゃないと苦笑しながら、ボクの意識は空間の中に弾けて四散した。次はどこに行くのだろう、つなぐとボクは。神様さえ分からないかもしれないなぁ……。
……とか、いかにも余韻を残しながら、以下へ続く。




