魔法世界(5)
と、まあ、魔法学校の編入当初は大変でした。(笑)
ところが、人間の環境適応能力って、まったく素晴らしいもので、ボクたちはすっかりここの生活に慣れてしまった。特に魔法関係でね。(ただ、つなぐは相変わらず座学の方だけは、苦手なようだけれど)
魔法の勉強といっても、真面目に授業を受けているから、このボクにでも簡単な魔法が使えるようになった。
ちょっとした擦り傷とかなら、呪文を唱えて治すこともできるし、小さな物なら(例えばマグカップなど)空中に浮き上がらせることもできるようになったのだ。
つなぐなんかは、『もしかして、あたしってば、才能あるのかも。ふふん』って、鼻息を荒くしているんだから、困ったものだよね。
なんて、鼻高々で自ら感慨に耽っている彼女を傍らにしていると、
「――さあ、結社の集会に行きましょう、ツナグ」
ミッチィさんだ。
ボクたちは、「異世界探求結社』というサークルのようなところに入っていた。あまり詳しくはないのだけれど、この結社は、公益に期することを目標としながら、『もしも魔法が存在しない社会があったら』……なんていう『架空の世界』をも議論するところなのだとか。(おいおい)
……なんだか、元いた世界と同じような感覚なんだよね。
つなぐにそのことを言ってみると、当然のような顔をして――
「やっぱ、身体の中のDNAが知らす知らずに、同じような環境を求めてしまうのだよ、うん」
と、かなり脳天気なことをいっているけど、無視しておいた。
それに、もう賢明な読者諸君には、既に察知できていると思うけれど、広小路先輩や、馬車道先輩、ましてや大通らいんさんもいらっしゃるのであった。(苦笑)
……あ、いや、若き天才魔導士=ワイドストリート、美貌の超魔女=カートロード、今をときめく美少女魔術師=ライン・ビッグスルー、の面々であるのだけれどね。(ここまで来ると、感動ものだよ。わはは)
「――本当に魔法のない世界って、存在するのでしょうか……?」
ミッチィさんが、背筋をぴんと伸ばして、ワイドストリート様に向かっている。
あ~、なんだか見たことあるような、この光景。(笑)
ワイドストリート様は、大きく頷いた。
「そうだ。一切魔法を使えず、すべて人の手によって行われている世界。空も飛べず、炎を創造することも、人の病や怪我を癒すこともできないのだ。ましてや、動物と話すことすらできない……」
「そんな……」
と、ミッチィさんは、目を大きく見開いた。悲しげなその表情が感動を誘う。今にも泣き出しそうな美少女を見ているのは、別の意味で結構そそられるよね。(苦笑)
「それでは、『人間』とはいえないわね」
美貌の超魔女=カートロードさんが、呟くように言った。
「そんな、最低な世界があるなんて、絶対信じられません! ホントなんですか? ワイドストリート様」
ライン・ビッグスルーさんが、言い放った。
ふんっと鼻を鳴らし、腰に手を当ててお約束のポーズを決めている。格好はいかにも的な魔女装束だし。
「魔法を使わないでどうやって生活しているのでしょうか? ワイドストリート様」
ミッチィさんだ。
「僕も詳しくは分からないのだげれど、もう一つの世界では全智全能の神である『こむぴゆた』というものが存在していて、それが全ての人間の生活を司っているらしいのだ……」
ボクは、そのやりとりを横で聞きながら、苦笑した。なんだか、ボクたちって場違いな人間なのではないのだろうか? 話を合わせるのは、かなり苦しいのだけれど。
ワイドストリート様は続けた。
「――なんでも、その『こむぴゆた』というものは、街の至る所にあって、『こむぴゆた』の指示することに従い儀式を行うと、ある種の『カード』を与えてくれるという。この『カード』というものは、我々の世界で使うマジック・タロットとは違い、使用者に金品を授けてくれるというのだ」
……あれ? 何か話が変な方向に行っているような気が。
「かつては、厳重な身辺調査が行われてからカードを与えられたというのだが、最近では人の手を介さずに、気軽に『カード』の授与が行われているという。魔法が使えないから、そのような手段で人々は生活するしかないのだろうね」
「酷いですね……」
ミッチィさんが目を丸くしている。
「そして、一度その恩恵を受けた者は、二度とそのカードの呪縛から逃れることができないと言われている……」
……何か違うような気がするけれど、まっいいか。(苦笑)
しかし、こんな平和な日々もやがて終わりを告げるとは、誰も知らないのであった。




