魔法世界(4)
魔法の学習は、厳しい。
どういう訳か、ボクたちはここで勉強することになってしまっていた。みんな強引で困ったものだ。
いくら説明しても、まったく聞く耳を持ってくれなくて、あれよあれよという間に魔法クラスに編入させられてしまった。
ここの編入手続きは、超簡単みたいだ。魔法の校長先生が「おっけー」という一言で決まっちゃうという……いやはや、もう。
おまけにあれよあれよという間に、ボクたちはセーラさんのお宅に居候することになってしまっていた。……ご想像に違わず、やっぱり魔法使いの一家だったけどね。(笑)
さて、学校の話に戻るけれど。
ホント、魔法の授業とかよくわからないよ。まるっきり、元の世界とは違っているし。(それは、当たり前か)
君たちに本日のカリキュラムを公開しよう。(笑)
一時間目 魔法界史
二時間目 治癒魔法
三時間目 魔法数理
四時間目 呪文言語
(お昼休み)
五時間目 魔法体育
六時間目 道徳魔法
とまあ、こんな感じだ。(お分かりいただけただろうか?)
雰囲気は普通の授業なんだけれど、基本が「魔法」なのだ。今まで魔法なんて習った事がないし(当然か)、授業についていけないよ、まったく。
今では、この世界で生きていくしかないと腹をくくったから(元の世界に帰る方法が全然分からないんだよね)、ある程度覚悟はできたけれど、これから魔法の勉強に苦労することになると思うと……。うう……。死にそうだ。
でもまあ、とりあえずは何とかなるかって感じだろうか。こうなったら、立派な魔法使いになってやるぞ。あ。つなぐは、魔女の定番・箒飛行の練習=『鉄棒またぎ』が苦手なようだけれど。(あんなに運動が得意なのにね)
こんなふうに決意したのは、あの日だったなぁ――。
セーラさんに無理矢理、教室に連れていかされて、ボクたちは、二人とも机に突っ伏していた。
まったく、一体、どうなっちゃうのだろう……。
だんだん、自分の置かれている環境が解ってきた。魔法が日常化している世界。ボクが生活していた世界とは、まるっきり違うところ。 つまり、ボクたちは別の世界に来てしまったということなんだろう。
これって、いわゆるパラレルワールドって、やつなのか……?
ふと、広小路先輩が言っていた言葉を思い出す。ついさっき聞いた言葉なのに、すごく懐かしい気がしてしまう。
あああ……。なんだか、すごく心細くなってきた。一体どうなってしまうのだろうか……。
隣に座っているつなぐも、すごくブルーが入っているようだ。
「こんにちは—— 」
突然、涼やかな声がした。ボクは声のする方に顔を向けた。
「あなたたち、転入生ね。わたし、魔法の令嬢・マジカルミッチィと申します。初めまして――」
「え――? みっちゃん――!?」
つなぐが驚いて、その女のコに向き直った。ボクも驚いて彼女を凝視した。まさか、阿倍野筋さんもこの世界に来てしまったのか? でも、ボクの知ってる、彼女とは、まるっきり別人のようだけど。
雰囲気は確かに阿倍野筋さんなのに、髪の色はすごく奇麗なブロンドだし、瞳も深いブルーだ。まるで、外国製の人形みたい。おまけに、いかにもな魔女っコな服装――全身黒装束で黒い大きな帽子(?)という格好だ。
「え――?」
彼女はちょっと不思議そうな顔をした。そして――、
「うん。まあ、ちょっとアクセントが違うけど、ミッチィよ。よろしくね」
と、彼女は、学校指定のプレートを指差した。ああ、納得。そこには、『魔法の令嬢・マジカルミッチィ』と書いてある。
不思議なことなのだけれど、ボクはこっちの世界の文字が読めるのだ。まるで日本語で書いてあるかのように、スラスラと。本当に不思議なことだ。
「こちらこそ、よろしくぅ――」
つなぐは、にこっとして応えた。こういった社交的な対応には、まったく感心してしまうよね。
二人とも、なんだか気が合うみたいだ。まるで本物の阿倍野筋さんみたいだ。……でも、なんかだか調子が狂うなぁ。別人なのに同じヒトみたいで。
――って、ところへ甲高い声が轟いた!
「そこ! もう、授業が始まっているんですよ! 私語は慎みなさいっ――!!」
ボクは、なんとなく聞き覚えのある、その声に悪い予感を覚えた。恐る恐る声のした方を見ると――。
おおう。あの古文の『山手先生』がいる!!
つなぐと阿倍野筋さん……じゃない、ミッチィさんの目の前に立って、見下ろしながら彼は存在した。なんで、ここに山手先生がいるんだ?
「あなた、転人生ね。新入りのクセしていい度胸をしてますね。少しは遠慮しようという気持ちはないのかしら――」
すっごく聞き覚えのある台詞だ。懐かしくて涙が出てくるよ。(苦笑)
「ごめんなさい、せんせぃ……。今度から気をつけます……」
つなぐは、瞳を潤ませて、深くうなだれた。こういう仕草が、果たしてこの相手に通用するのだろ一か?
「まあ、分かったならいいです。この次は気をつけるようにっ!」
山手先生は(なのかなぁ?)は、少し満足げに、こほんと咳払いをした。おおぅ、決まった!
つなぐは、格ゲーで裏技コマンドがうまく決まった時のような顔つきを、ボクに向けた。おそらく、気分はアーケードでワンコインクリアした気分なのだろう。
「あの高級魔導師、マウントハンドって、本当に嫌な感じよね――」
ミッチィさんが、つなぐの頬に擦り寄るように、囁いた。
うう。やっぱりねぇ……。(苦笑)




