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交錯  作者: 千葉 実
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プロローグ:2045年

設定変更に伴い、年代のみ変更しました('13/4/01)

 太陽活動極小期――宇宙線から太陽系を守っていた太陽風が弱まることで、有害な宇宙線が地球に降り注ぎ、人類の生活に甚大な被害を与えた。


 地球に降り注いだ宇宙線は大気中の分子と反応し、雲を発生させる。巨大な雲は太陽光を遮り、地球全体の平均気温を下げ、2023年10月より小氷期に突入した。

 人類は二酸化炭素増加による温暖化に頭を悩ませる必要がなくなったが、今度は寒冷化が大きな問題となって立ちはだかったのだった。赤道付近を除いた、海の大部分が氷に覆われた。

 特に被害が大きかったのは、普段は温暖だった地域だ。暖房設備が不十分な為、猛烈な寒波により多くの犠牲が出た。

 熱帯の地域では降雪こそなかったものの、度々大雨による水害に見舞われた。


 宇宙線と言えば、近年世界的に頻発している地震や火山活動の活発化までもが地表下にまで到達した宇宙線により引き起こされた、という説が最近の主流だ。

 大気を通過した宇宙線は、地殻の割れ目にある水やマグマに当たり、そこに気泡を生む。それが地震や噴火のエネルギーとなる場合もあるというのだ。

 多発する噴火や地震、そしてそれらによって引き起こされる地滑りや津波により、地形が大きく変わったところも少なくない。

 元々「地震大国」と言われていた日本も例外ではなく、列島各地で大地震が起き、多くの犠牲者を出した。

 しかし最も大きな損害を出したのは2034年の富士山の噴火だ。市街地を襲った噴石の被害もさることながら、溶岩と火山灰は日本の経済活動を麻痺させた。

 太平洋に向かって流れ出た溶岩は東日本と西日本を結ぶ道路と鉄道を分断し、偏西風によって首都圏を含む山の東側に運ばれた火山灰は3週間降り続いて断水や停電、空港の閉鎖や家屋の倒壊などを引き起こしたのだ。

 また、国を代表する山の噴火は、多くの日本人の心に大きな傷を残した。


 地球規模の気候変動は、漁業や農業に大打撃を与え、食糧危機が深刻化した。飢えは暴動へと繋がり、非常事態宣言が出された国も少なくなかった。

 人間だけでなく、動植物の生態系にも影響を与えた。ある研究チームのまとめによると、2023年からの5年の間に絶滅危惧種の実に4割が絶滅の道を辿ったという。


 更に、飢えに苦しむ人類を毒性の強い新型インフルエンザの世界流行(パンデミック)が襲った。現在では「’29年型」と呼ばれているこの新型は、2031年にワクチンが実用化されるまでの2年もの間、猛威を奮った。


 そして2041年――相次ぐ自然災害、飢饉、パンデミックなどで疲弊した混乱の時期を窺っていたかのようなタイミングでの地球外生命体が地球への侵略を開始した。

 『彼ら』(エイリアン)は見た目や身体機能は地球人に酷似しているものの、人類より遥かに進んだ文明を持ち、大型の飛行物体で圧倒的な武力をもって地球に攻め込んできた。


 しかし、苦難の時代を生き抜いた人類は予想以上の抵抗を見せた。

 『彼ら』――つまり共通の外的の存在は、皮肉なことにも地球人同士の一切の争いに終止符を打った。『彼ら』が地球上に築いた基地を攻撃する為、各国の軍が協力体制を築き、「地球連合軍」として戦っている。

 過去に争っていた国同士の軍が共同作戦を行うことも珍しいことではない。

 奮戦の末、侵略開始当時6箇所もあった敵の大規模な基地は2043年時点でアラスカとオーストラリア南部の2箇所を残すのみとなり、以来2年間膠着(こうちゃく)状態が続いている。


 日本は『彼ら』の撤退まで、という期限付きで自衛隊を新日本国防軍として再編した。

 士官学校も新たに整備されたが、度重なる災害派遣と『彼ら』との戦闘の人員確保の為に、2042年には徴兵制度まで採用した。18才から24才までの6年もの長期間、男子は軍に従事することとなっている。

 とは言っても、ポツダム宣言を受諾した1945年以来、実に100年近くもの間戦争のなかった国である。寄せ集めの国防軍の戦闘能力は他国と比べるとどうしても劣った。


 軍事力とは反対に、日本が抜きん出ていたのは技術力だ。

 地球連合軍の戦闘機の製造や整備、粉塵の中でもノイズがほとんどない超小型の通信機器の開発、成長の早い野菜の栽培、災害の研究――『彼ら』との戦いをバックアップし、残された人間の命を守るシステム作りが、日本に求められている役割となっている。


 中でも同国の上村物理学研究所が開発した磁気シールドは、『彼ら』の侵攻以降の世界になくてはならない大発明と言われている。

 地球規模の『異変』に生き残った人類は、磁気を帯びたドーム状のシールドに守られた都市に暮らしている。

この磁気シールドは元々、2024年に起こると予測されていた太陽の極大期に起こる太陽嵐により、発電所や変電設備が損傷を受けるのを防ぐ為、2023年に開発されたものであった。

 しかし研究発表の直後に、太陽は極大期ではなく正反対の極小期を迎えた。これにより磁気シールドは不要とされたが、20年の後にその強い磁力が『彼ら』の機体の侵入や攻撃を妨げる効果があることが分かり、思わぬ形で実用化された。


 そして、国防軍が秘密裏に実用化したもう一つの大発明――それがタイムマシンだ。


 軍におけるタイムマシンの使用用途は、現代では既に絶滅している植物を太古の世界から採取することである。厳しい環境でも育ち、食用として栽培可能な種を見つけることができれば、食糧危機の打開に一役買うと言う訳だ。

 一方、不用意に過去への干渉が行われれば歴史が変わってしまう可能性もある。そこで日本政府はタイムマシンの乱用を避ける為、この発明を世界に伏せた。タイムトラベラーは国防軍の監督のもと、マシン開発者の定めた『時間移動(タイムトラベル)における5原則』を厳守し、タイムトラベルを行うこととなっている。この条件下で、最初にタイムトラベルが行われた2044年以降の11ヶ月の間に、8回実行されている。


 2045年の現在――この隠れた大発明こそが『彼ら』との膠着状態解決への糸口となることを、誰一人気付いていなかった。

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