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9 梅干し柄デビュー

 ダニエルのルノー4の後部座席に私と妻と娘が乗り込むと佐倉は『こんにちは赤ちゃん』を歌いだした。それを聞いてダニエルも一緒になって歌いだしたので私は行き先を聞けなかった。車の冷房がないため窓を全開にしていたのでダニエルと佐倉の歌は通りを歩く人々の注目を集めた。佐倉の歌は梅干し柄以上の注目度だったのだ。信号で車が停まると歩行者は佐倉とダニエルを見て笑っていた。私と妻は車の中でずっと下を向いていた。とても外を見る気にはなれなかった。私の娘は佐倉の歌が気にいったようで上機嫌だった。私は娘がおかしな影響を受けそうで困惑していた。


「到着ですよぉ!」佐倉は車が停まると到着を知らせてくれた。結局佐倉が言った古巣が判明したのはこの時だった。

「自由が丘!」妻は仰天した。梅干し柄を着て人が集まる街にやって来たのだ。私も顔面蒼白だった。

「ワオ!この街で梅干し柄が有名になるよぉ!」ダニエルは歓声をあげた。私は悲鳴をあげたかった。妻は娘を抱いたまま硬直していた。

「六人で着て歩いたら目立ちますよ。気持ちいいですねぇ」佐倉は気持ちが良かったらしいが私は気持ちが悪くなってきた。

「ねぇ、佐倉、私なんだか気分が悪くなっちゃたの。今日は帰ろうよ」いつも強気な妻が佐倉の前では気の毒なほど気弱だった。

「そうなんですか?車酔いかなぁ。ダニエルの運転がマズかったんだな!」佐倉は勝手に決め付けてダニエルを責めた。

「OH!すいませんでした。でも大丈夫ね。響子が休憩場所を用意しているよ」

「休憩場所?」私はとても嫌な予感がした。佐倉は車を降りて大きく伸びをした。


「チーフ!マネージャー!こっち、こっち」佐倉はスキップで先を進んでいた。妻と私は意を決して車を降りた。人通りで溢れる街中で「かわいい!」という歓声があがった。梅干し柄を着ていることを思い出した。佐倉の思惑通り梅干し柄は注目を浴びた。ダニエルは歓声があがった方に向かって両手を振ってジャンプした。

「こらぁ!ダニエル、そっちじゃないぞ」佐倉が大きな声でダニエルを呼んだ。突如街に現れた梅干し集団はこの夫婦の派手な立ち回りで余計に目立った。私と妻はまたしてもうつむいて佐倉とダニエルの後に続いた。この夫婦と行動を共にした時点で目立つことは分かっていたはずなのに佐倉のペースに乗せられてしまった。その佐倉が向かった先はなんと私が管理する自由が丘の直営店だった。

「部長、佐倉とお揃いじゃないですか」店から出てきたスタッフが大笑いした。佐倉とダニエルは梅干し柄を褒めてくれた通行人に派手なアピールをしていた。生涯で最も人の視線を浴びた日は始まったばかりだった。

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