8 ペアルック
佐倉は時間を守らないが約束を守る。矛盾しているようだがそうなのだ。翌週になると佐倉は再び我が家にやって来た。今度は家族揃って現れた。佐倉の夫も佐倉も梅干し柄のシャツを着ていた。妻は目を丸くして一瞬呼吸までとまった。鼓動まで止まるのではないかと思うほど驚いた顔をしていた。私は一瞬鼓動も止まったような気がした。梅干し柄を着た二人はインパクトが大きかった。
「いやぁ、近所で注目の的でしたよ。この柄かなり好評ですよ。早速チーフとマネージャーも着てください。お嬢ちゃんにもパーカーを作ってきましたよ」佐倉は満面の笑みで出かける催促をした。佐倉が手にしていた紙袋の中にはシャツ二枚と子供用のプルオーバーのパーカーが入っていた。その紙袋を佐倉は突き出して妻に渡した。
「これならすぐに流行の柄になるネ」佐倉の亭主のダニエルも大変な乗り気だった。困ったのは私と妻だった。確かに佐倉の梅干しプリントはセンスが良いと思ったが身につけるとなると相当な勇気が必要だった。
「どうしたんですか?早く着替えて下さい」佐倉は一向に動こうとしない私と妻に促した。
「もしや、照れているんですか?大丈夫でぇす。私の車で行きますからネ」ダニエルが安心材料を投げかけた。
「あぁドライブですか」私は安堵して妻にも着替えを促した。外を見るとルノー4が停車していた。
「早く、早く、駐車禁止で捕まっちゃいますよぉ」佐倉が更に催促したので私と妻は慌てて着替えた。自分の姿を確認もせず慌てて玄関に向かいそこで妻と私をお互いの姿に苦笑した。似合っているとかいないとかそういった問題ではなかった。我が子の姿はどのような装いでもかわいかった。それにしても同じ柄を身に付けた家族というのは予想以上にインパクトが強いと思った。それが佐倉の思惑なら大した策士であった。
「さぁ古巣に向かいますよ!」佐倉は威勢よく言った。
「古巣って、まさか!」私は佐倉の宣言を聞いて青ざめた。