5 うめをえがくさくら
私は家の近所にある桜並木を通った。予想通り佐倉は歓声を上げ子供のように喜んだ。「やっぱり日本はいいですねぇ。色合いが日本そのものだなぁ。強い色彩に慣れると微妙な感じが描けなくなっちゃいますよ」佐倉は誰に言うでもなく桜を眺めた。
桜並木を過ぎて我が家に到着すると佐倉は妻との再会を喜んだ。男にはついていけない会話が始まり私と佐倉の夫は政治談議で盛り上がった。国際的な会話はいつしかファッションを軸に盛り上がり妻と佐倉も合流して熱を帯びた。
「ダニエル!今度は梅干し柄のパジャマを作るぞ!」佐倉はおかしなことを言った。
「梅干し柄?」私は失笑した。妻も同じく失笑した。
「OH!素晴らしいね。きっと響子に梅干し柄は良く似合うよ」佐倉の夫のセンスは佐倉に汚染されていた。そもそも梅干し柄の生地があるとは思えなかった。
「やっぱり日本は梅干しですよねぇ。そう思いませんか、チーフ」同意を求められて私は言葉を失った。
「ねぇ佐倉、梅干し柄はないと思うな」妻が佐倉を諭すように言った。すると佐倉は鉛筆でスケッチブックに佐倉が思い描く梅干し柄を描き始めた。梅干しの輪郭に目と鼻と口、舌を出してウィンクする梅干し顔が描かれ、その顔を梅の花が囲んでいた。佐倉のセンスはやはり何かが違っていた。
「うん、これならかわいいぞ。お子さんのパジャマにはこれがいいですよね」佐倉は絵を掲げて妻に見せた。
「かわいいね」妻は絵を見て大喜びした。
「よし無地の生地にプリントしようっと」佐倉は早速娘のためのパジャマの構想を練っていた。