12 梅干し柄の量産化
佐倉の梅干し柄はその週の私の仕事を梅干し色に染めた。直営店での取り扱いまで決まって佐倉は三百枚以上のシャツを量産することになった。しかも妻の管理する店でも取り扱いが決まっていた。夜になるとダニエルも梅干し柄のシャツを作る手伝いで疲労が溜まっていたようだった。電話をしても十回以上コールしないと出てくれなかった。
「はーい。佐倉です」電話に出る佐倉は陽気だったが声に張りはなかった。
「大丈夫なのか?」私が電話で聞くと佐倉は必ず「大丈夫です!」と答えた。しかし私の妻はそうは思っていなかった。
「今度佐倉の家に言ってみようかな」妻は佐倉の多忙を案じていた。
「そうだね。それがいいよ」私も妻に同意した。
妻は出勤の際には子どもを連れていた。彼女の会社には育児所があったのだ。やはり大企業は福利厚生の扱いが違う。女性の社会進出を歓迎する会社のお手本のようだった。お陰で妻は子どもと出勤し子どもと帰宅できた。しかし、その日は帰宅前に佐倉の実家に寄ったのだ。佐倉の実家を訪ねて帰って来た妻は安堵の色を浮かべていた。
「佐倉ったら凄いのよ」妻は嬉しそうだった。
「どんな様子だった?」私が尋ねるのを待っていたかのように妻は「佐倉ね、二人も人を雇っていたの。ミシンも三つあったわよ。佐倉ったらお母さんまで使ってシャツを作っていたの!」と言った。
「大したもんだね」
「梅干し柄のTシャツも作っていたわよ」
「Tシャツ!」
「うちにも納品してもらえるように頼んできたわ」
「即決だな」私は妻の決断に感心した。
「あなた、平日に休み取れないの?」妻は唐突に休暇予定を聞いてきた。
「なんで?」
「一区切り付いたら佐倉の実家に一緒に行きましょうよ」
「どうして?」
「佐倉が相談したことがあるんだって」
「相談?」私は何故か嫌な予感に襲われた。
「いいでしょ」妻が笑顔で懇願した。私は妻の笑顔には逆らえなかった。