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10 佐倉のセールス大作戦!

 私は佐倉とダニエルが通行人に派手なアピールをしているのをよそに直営店の店内に避難した。そして妻と子どもを店の奥にある狭い休憩用のスペースに通した。まさか家族揃って、しかも同じ柄の服で職場の人間の前に姿をさらすことになるとは思わなかった。

「このシャツ、うちの店でも売れそうですよね」とスタッフが言った。

「そうか?」私はいきなり仕事モードに変わった。

「佐倉はそのつもりで来たんじゃないですかね」と店長が言った。

「この柄が売れるのか?」私は自分が身につけている梅干し柄が自分の仕事に絡むとは予想さえしていなかった。

「でも、売れるかも」と妻が言った。

「本当に?」私は仕事と家族の狭間で梅干し柄を改めてじっと見た。佐倉は梅干し柄を私と妻に営業したかったのだ。私は佐倉が子供を育てながら自分で出来る仕事を模索していたのだと気付いた。派手なパフォーマンスの裏に佐倉の母親としての自覚を感じた。妻は私よりわずかに早く気づいたようだった。

「うちの店で売ろうかなぁ」妻は私の表情を観察するように見つめた。

「おい、うちが先だぞ」私は妻に言った。

「あら、まだ商談もしていなでしょ。私は今日このあと佐倉に条件提示するわよ」妻の決断は早かった。若くしてマネージャーまで昇進しただけのことはある。

「おっ!家族お揃いで和んでいますねぇ」佐倉が顔を出した。

「ねぇ佐倉、この梅干し柄の商品を本牧の店に納品してくれないかしら。買取りは無理だけど委託なら私が話しをつけてあげる」妻は佐倉が何も言っていないのに条件提示をした。

「本当ですか?やったぁ!」佐倉は背負った自分の子供を見て「マイちゃーん、マイちゃん柄が売れまちゅよぉ」と言った。

「マイちゃんっていうの?」妻が佐倉に聞いた。

「そうでぇす。梅って書いてマイです」佐倉は娘をあやしながら答えた。

「へぇ」私は梅と書いたらおばあさんみたいだと思った。

「ばあちゃんが梅って名前だったんですけど同じ読み方だと年寄り臭いからマイにしたんです。梅が日本に渡来した時はメイとかマイとか発音したらしいですよ」佐倉は娘の名前を決めるのに色々と調べたようだった。

「でも梅って書くんでしょ」妻が聞くと佐倉は「戸籍上はマイです。そもそも英国籍ですから漢字じゃないんですよ」それはそうだと思った。英国籍なのにイギリスに居住していない不思議な夫婦なのだ。

「チーフ、自由が丘でも売ってもらえないですかね?」佐倉には遠慮という感覚はなかった。

「今度の会議で私が通すよ。条件はそれからだけどかまわないのか?」私が言うと佐倉は店外にいたダニエルの元にすっ飛んで言った。

「ダニエル!やったぞぉ。営業成功だぞ」

「本当かい?それは良かったネ」ダニエルは自由が丘の店の前でステップを踏んで喜んだ。佐倉はマイちゃんに何か呟いていた。私と妻はこの夫婦の策略にまんまと乗せられてしまったようだ。


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