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第7話 『定常円旋回』

金曜の夜。

いろは坂にいつものメンバーがそろっていた。


「それにしても、雪ちゃん。あの乗りにくいMR2をよく乗ってるよな」


忠秀は広場の中央に置いたカラーコーンの周りをぐるぐると回るMR2を見ながらそうつぶやいた。


「定常円旋回だっけ?」


「ああ。一定の大きさの円を描くように車を回す練習だ。地味な練習だが、ドラテクを鍛えるには必要な技術だからな」


「へぇ〜。しかし、うまく回るわね」


「……うん。案外胴体視力なんかも雪ちゃんは良いからね」


美羽も聖も感心しながら雪の運転を見守っている。


「次は、8の字にチャレンジしたらいいわね」


「そうだな。上達が早いからな〜。よし、俺も一本走ってくるか」


「そうね。聖はどうする?」


「……雪ちゃんの練習が終わったら一緒に走ってくる」


「了解。じゃいってくるわね〜」


「……うん。気をつけてね」


聖は愛車の下へ歩いていく美羽と忠秀に手を振った後、MR2へ視線を戻した。


(雪ちゃんとあのAW11のコンビ。きっとビッグになるな)

聖は、1人心の中でそう思った。




その頃、雪は……。




(うーん。定常円旋回ってむずかしいなぁ〜)


『雪ちゃん。落ち着いたハンドル操作と冷静なアクセルワークが重要だぞ。常に目線は、コーナーの出口を見るイメージを持つんだ』


「常に目線はコーナーの出口……」


AWがそう言ってきた気がしたの私は、コーンの先を落ち着いて見据える。


今ままで目の前を見ていたのを、少し先に目線を持って行っただけで、車の安定性が断然変わってきた。


(うん。コーナーを意識しすぎて全体が見えてなかったんだ……)


新たな発見で、また一つAWに自分が近づけた気がした。


ある程度ぐるぐるとコーンの周りを回り、慣れたところで車を止めた。


「ふぅ。あれ? みんな走りいっちゃったのかな?」


駐車場には、美羽と忠秀の車がない。


コンコン。


不意に助手席の窓ガラスを軽く叩かれたので驚いてそちらを見ると缶コーヒー両手に持った聖の姿があった。


「宮ちゃんどうしたの?」


「……疲れたでしょ。コーヒー飲む?」


ドアを開けて聖が助手席に滑り込んできた。


「宮ちゃん。ありがとう!」


缶コーヒーを受け取る。


「美羽と忠秀は?」


「……下り一本勝負行っちゃった」


「なるほどね」


あの二人だもんなと苦笑しながらコーヒーを一口飲む。


「……雪ちゃんはラリーって知ってる?」


「ラリー……。あの土道とか走るレースのこと?」


「……うん。あんな感じの未舗装の道路はスピードが乗らなくてもドリフトしちゃうから、技術を磨くのにいいんだよ」


「へぇ〜。じゃあ今度走ってみようかな」


「……だったら安全で走りやすいところ知ってるから一緒に行ってみる?」


「うん! 行きたい、行きたい!」


聖と走り屋で盛り上がってる時だった。


広場に車を止めている自分の横に車が並んできた。


「……白黒のレビン」


「君、ココの走り屋……って雪ちゃん!?」


ハチロクの窓ガラスがあき、現れた男性は驚きの顔を上げていた。


「あっ! 浜坂先輩!」


「その車って、もしかして雪ちゃんの?」


「ハイ。買っちゃいました!」

呆気にとられていた浜崎先輩だが、やがてニッコリと微笑んだ。


「おめでとう雪ちゃん。そしてようこそ、走り屋の世界に!」

「よろしくお願いします。浜崎先輩!!」


「良かったら、今から走らない?」


「もちろんです!」


浜崎先輩に誘われ、AWを動かそうとして聖に目を向けた。


「宮ちゃんはインプレッサに乗る?」


すると意外にも聖は首を横に振り、


「……雪ちゃんの助手席に乗ってるよ」


「分かった」


「……うん」


浜崎先輩のハチロクの後ろをついて行く形でいろは坂のダウンヒルステージへ突っ込んでいく。


スピードが乗ってきた頃にやってきた第一ヘアピンを早めのブレーキで十分に前タイヤに荷重をかけてコーナーを抜ける。


さっきの定常円旋回でつかんだコーナーの先を見る目線でコースをしっかりと捕らえる。


前を走る浜崎先輩のハチロクを視界の隅に入れながら次なるヘアピンにアプローチをかける。

アウトに車を振り、コーナーを鋭角に曲がり立ち上がり重視の走行ラインに雪のAWは知らず知らずのっていた。


AWのタコメーターが一気に吹き上がり、針をレッドゾーンに放り込んでいく。


(雪ちゃん。やっぱり飲み込みが早いな)


まだまだ初心者ではあるが、コーナーを抜けるたびに鋭くなっていく雪の走りに聖は感動すら覚えていた。


いろは坂のようなタイトなコーナーが続くストップ&ゴーのステージとAWのスーパーチャージャーの組み合わせは非常に相性がよかった。


低速から効いていくるスーパーチャージャーの爆発的パワーはヘアピンを抜けた後の加速を異次元なものにしていた。


「へぇ。雪ちゃんなかなか上手いじゃないか」


チラッとバックミラーを覗き込んだ浜坂は感嘆した。


そこそこのペースで走っている自分のハチロクにAWが食いついてきている。



コーナーの入り口では一瞬離れるものの、コーナー出口での加速勝負でAWがその車間を詰め寄ってくる。



「いい車だ。オーラからして違うな」


後ろからヒシヒシと伝わってくるその圧力に浜坂はいかにも面白いことがあったかのように笑った。




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