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第4話 『魂を持ったクルマ 上』

『抜いちまった。雪ちゃんがランエボを……』


トランシーバーの向こうの忠秀は、間抜けな声で答えた。


「雪が抜いたの!?」


「……抜いたって、ここは峠だよ」


美羽も聖も忠秀の報告に唖然となって顔を見合わせた。


「忠秀!ここは天下の公道よ!!抜くなんてバカなこといわないで。ましてや、雪は免許とったばっかなのよ」


『オ、オレにも目の前で起きたことが信じられねぇんだ……。AWが鮮やかにイン側から抜いたんだ』



「……イン側。いろははそんなに広くない」


「そうよ。どうやってインから抜くのよ!?」『ダートだ……。AWは、イン側のフロントタイヤをダートに突っ込ませて砂煙上げながら曲がっていったんだ』



「そんな攻め方してたらアンダーで曲がれないんじゃ……」


「……ミッドシップだから?」


『可能性は無くはないな。ミッドシップは、フロントが軽いが故にアンダーを出しやすい。だが、下りの低速コーナーとなれば別だ。下りは、嫌でもフロントタイヤに荷重がかかるからな』


「……でも、やろうと思って出来ることじゃない。ここを走り慣れてない限り」


「それって、雪がここの常連ってこと?」『いや、流石にそれはないだろ。だが、あのAW。何かがおかしい……。』


いろは坂で友人たちの考えが渦巻く中、雪が運転するAWは、いろは坂を上っていた。


「ヤッパリ、MR(ミッドシップ)で上りを攻めるのは厳しいでしょ」


助手席に座っている坂本は、優しく微笑みかけるように雪に話しかける。


「ちょっとでも、油断するとクルマが曲がらないんですよね」


先ほどから、どうもクルマが曲がらない。


「上りじゃ、フロントタイヤにしっかり荷重がかからないからアンダーになるのよね」


「アンダー?」


「そう、アンダー。正確にはアンダーステアって言うの。コーナーでアウト側に走行ラインが膨らむことを指すの。ちなみにイン側に巻き込まれるのをオーバーステアって言うわ」


「なる程。難しいですね」


必死になってステアを切り込むが、クルマは思ったように曲がらない。


「それじゃ、一つアドバイス。コーナー手前でブレーキをしっかり踏んであげてフロントタイヤに荷重をかけてみて。私が合図するから言うとおりにしてみて。それじゃ、次のコーナーでやってみようか」


コーナーを抜け、アクセルを踏み込む。


直ぐに左に曲がるコーナーが見えてきた。


「そろそろ、ここでブレーキ!」


えっ!?


こんな手前でブレーキを踏むの?


そう思ったが、雪は右足でブレーキペダルをリリースする。


慣性の法則でグッと体が前に持って行かれる。


「そのまま、ここでブレーキをはなして、ステアを切り込む」言われたとおりに、ブレーキペダルから足をはなし、ステアを左に切り込む。


雪は驚いた!



それもそのはず、先ほどまで全然接地感がなかったフロントタイヤがしっかりと地面に食いついている感覚が握っているステアから感じ取ることができたのだ。


ステアをそれほど切り込んでいないのにAWは、コーナーにそって曲がっていく。


フロントタイヤがグリップしたまま、コーナーの出口が見えてくる。


横Gがだんだんとおさまってきたとき。


「ココからアクセルを踏み込む。」


アクセルペダルに乗せていた右足を踏み込む。


タコメーター下についているSUPER CHARGER(スーパーチャジャー)のランプが点灯して、タコメーターの針が一気に跳ね上がっていく。


AWは弾丸のように加速していく。


速い!


雪は、自分の運転では感じたことない加速感に少し戸惑いながら。


AWというマシンを通して自分の五感に訴えかけてくるモノを吸収する。

このとき、雪にはAWがこう言っているように感じた。


『キミに、乗りこなせるかな?』



耳を通してというか、頭に直接響いたような声だった。


坂本は、そんな雪をみて、クスッと笑った。


マシンとの対話モードに入ったのか。


雪ちゃん。


このAW11はアナタを知らない間にもっと上のレベルに連れて行ってくれるわ。


だって、このコは意志を持ったクルマなんなんだから……。



AW11の心臓。

4A−GZEは、力強い咆哮をあげる。


マフラーから、真っ赤な炎を吐きだしてAWはいろは坂を駆け上がったのだった。



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