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第3話 『いろはの亡霊』

話は少し戻り二台がスタートラインに並んだとき。


「……雪ちゃんのAWがスタートラインに」


「横に並んでいるのは、走り屋食いのランエボⅥ!」


聖も美羽も驚きを隠せない。


走り屋食いと噂されているランエボⅥ、最近ちまたで悪名名高い走り屋だ。


バトルしているクルマをワザとクラッシュさせてしまう恐ろしくマナーの悪い奴。



特にここは急勾配のいろは坂。


クラッシュして、ガードレールを突き破りでもすれば、即THE END。



「ダメ!雪、そいつとバトルしちゃ!!」


しかし、そんな美羽の声は虚しく届かず、スタート合図を告げる空き缶が空中に投げられた。


缶が落ちるのと同時に二台はいろはの急勾配に向かって飛び出す。





「うそ……絶妙なロケットスタート。」


「……本当に雪ちゃん?」ランエボに先行されているが素人とは思えないスタートダッシュだった。







スタート後、しばらくはは緩やかなコーナーが続く。


ランエボについて行く形でAWが走っている。


流石、日本の三大戦闘機に数えられるランサーエボリューションである。

ミッドシップのAWよりも早いスタートでAWの前にたっている。



「少しは、出来るわね。」


運転席で、クスッと笑う坂本。


とうていではないが、限界走行をしている様子には見えない。


今までの緩やかなコーナーのリズムは打って変わって180度ターンのヘヤピンが姿を現す。


「さて、ぶっちぎってやるぜ!!」


ランエボの男は、ヘヤピン手前で減速、サイドブレーキを引いてリアタイヤをブレイクさせる。



リアを滑らせながらヘヤピンコーナーを曲がる。


「ヘッ。こんなもんだ。ついてこれねぇだろ…………なに!」


ランエボの後ろピタリと張り付く二つのライト。



先ほどのヘヤピンコーナー。


AWは、ランエボよりも早めのブレーキングからコーナーに入る。


坂本の足さばきはダンスステップのように力が入っていない。



ブレーキ、二速にシフトダウン、再びアクセル。


ヒール&トゥーを駆使して軽やかにコーナーを曲がる。


サイドブレーキは、いっさい使わないブレーキングドリフト。


立ち上がりを重視したラインでランエボにピタリと張り付いたのだ。



「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」


ガツンと荒々しくアクセルを踏み込む男。



「フフッ。慌てるのは、まだ早いわよ。」



このやりとりをみて、雪は正直驚いた。



なんなの? 坂本さんのドライビングには、一切の無理が感じられない!


ステア、アクセル、ブレーキ、シフト。


どれをとってもスムーズで、凄い!


私は、峠を攻めるのにあれだけ恐ろしいのに、坂本さんは、私よりも速いスピードを出しているのに、


怖さが全然感じられない。横の景色は、ビュンビュンと通り過ぎていく、だがフロントガラスから見える景色は不思議とゆっくり流れているように感じる。


決して速いとは言えないマシンにぴたりと張り付かれているランエボの男は、少々焦っていた。


今までは、後追いで後ろから相手のマシンをつつくか、先行でぶっちぎるかをしていたのだがココまでぴたりと後ろに張り付かれたのは初めての経験だった。


そんな経験したことのない事態に焦っているランエボに対し、余裕でついて行くAW。


「何でついてきやがるんだてめぇはよ!」


アクセルワークが雑になったことによりテールを振るように走るランエボ。


こうなっては悪循環だ。



乱暴なアクセルワークでは、速く走ることはできない。


しかも、こうもテールを無駄に滑らしていてはタイヤの消耗も早くなる。


そんなランエボを、冷静に追いかけ坂本。


コーナーというコーナーを最小のカウンターステアを当てながらドリフトで抜けていくAW11は神がかっていた。



その頃頂上では美羽がトランシーバーで忠秀と連絡をとっていた。


「忠秀!あんた今どこにいるの!?」


「んっ、美羽か。今下りの道を確かめてるところだが、どうかしたのか?」


「さっき、雪のAWが走り屋食いのランエボとバトルを始めちゃったの!」


「なに!……確かに、スキール音が聞こえる。もうすぐそこまで来てるみたいだな。」



「忠秀。もしも雪に何かあったら私!」


「美羽、落ち着け!大丈夫だ。エンジン音が重なって聞こえている。雪は事故ってなんかいない!」


「……よかった。でも、雪ちゃんどうしたの?まだ一本しかいろはを流していないのに、あんなにうまく走れているの?」

「分かんない。でも、今は雪を信じよう。」


「……そうだね。」


「忠秀。雪がアンタの前を通ったら状況を詳しく教えて。」


「了解。スキール音がすぐ近くまできてる。」


忠秀は、今見ていること、聞いていることを詳しく話す。




話は、ランエボとAWに戻る。


冷静さを取り戻した男は、バックミラーに写るAWのヘッドライトを見て言った。


「ここは、天下の峠だ。前にいれば抜かれることはねぇ。ストレートは、断然こっちが有利だ。ラストの高速区間でバックミラーから消してやるぜ。」


一方、坂本はあくびをかみ殺すようにいった。


「いつまでも、後ろにいるのにも飽きたし、次の右でしとめるとするか。」


ギュッとステアを握った坂本の目が変わった。


左のヘアピンを立ち上がり重視に抜けるとランエボの左側にAWの車体をねじ込ませる。


「なに考えてんだ!」


男は、左側に並んできたAWにたいして、焦りながらも次の右ヘアピンにアプローチする。


「半車分でもいいから前にいれば、ヘアピンで抜かれることはない。しかもこっちはイン側だ。多少無理してもアウト側の奴のラインをつぶすことができる!」


ギリギリまで我慢して、忠秀が見つめている右ヘアピンに飛び込む。

「どうだ!」


男は、笑いながらアウト側に目を向ける。


しかし、そこにはAWの姿はない。


右のサイドミラーに写るAWのヘッドライト。


易々とランエボのイン側に潜り込むAW11。


「なっ!そこに道はねえはずだぞ!」


ランエボは、ヘアピンにいつもよりブレーキを遅らせて飛び込んでインに着ききれていなかった。

だからと言って、AWが一台まるまる入れる程インを開けてはいなかった。


しかし、現実はAW11がイン側に鼻面をねじ込んでいる。


「一体どういうことだ!?」



「いろは坂だからこそできる芸当よ。いろは坂のイン側のガードレールは、コーナーのかなり手前から無いわ。つまり、本当のイン側はもっと手前にあるのよ!」





話は再び忠秀に。



「近いぞ……来た!ランエボが先行、すぐ横にAWがいる」


忠秀の目の前で両者のラインがクロスする。


「AWがインにつく!!うわっ!右フロントタイヤをダートにつっこませてまでもイン側にいやがる!」


忠秀にとって信じがたい瞬間だった。


左フロントをアスファルトに残しながらドリフトでヘアピンを抜けるAW。


コーナー出口でランエボと並ぶ。


こうなっては、ランエボは全開で加速することはできない。


右にはAW、左にはガードレールがあるためアクセルを踏み込めない。


AWは、勝ち誇ったかのようにマフラーから火を噴くと、ランエボ前にでた。



「いろは坂で追い抜きなんて……。あり得ないだろ」


忠秀は、目の前でおきた出来事を整理するのに数十秒ほどかかった。


「マジかよ……」






「ふやけた走りじゃ。あたしに勝とうなんて百年早いわよ。」


一度、AWがランエボの前にでてから、バックミラーの彼方にランエボを追いやるのにはそれほど時間はかからなかった。

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