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第2話 『ファーストコンタクト』

二学期、初めの金曜日。


AWを買ったのが、夏休みの最後の日だった。


工場のオジサンが乗るんだったらもう一度整備しておいた方がいいと言われたので無料でAWをみてくれて、今日家にAWが届く。



「ああ、早く家に帰りたい。」


後一時間、我慢すれば放課になる。


「雪。どうしたのそんなにそわそわして?」


私の元にやってくる少女。

きれいな黒髪のショートカットは、癖毛もなくスラーっと肩まで伸びている。


しっかりとしていそうな顔つきはキッリとした目だからだろう。


彼女は私のクラスメイトであり親友の也元なりもと 美羽みう


面倒見がよくて、しっかりしているので、我がクラスの委員長を勤めている。


「ミウ。今日私のクルマが来るんだ。」


「だから、そんなにニヤけてたの。」


「わたしそんなにニヤけてた!?」


私は、席からガバッと立ち上がる。


「ニヤけてた。…っで。何のクルマ買ったの?」


「AW11。」


「へぇ〜。なかなか難しいクルマ買ったわね。」


「まあねぇ。ミウ、私と勝負する?」


「いいわよ。雪の運転がうまくなったらね。」


実は彼女、バリバリの走り屋なのだ。


「そう言えば、ミウはなにのってるの?」


「私?私はFC3Sの後期型。」


「FCカッコいいもんね〜。」


「也元のFCだとおおおぉぉぉ!」


後ろの席から赤毛の少年が飛んでくる。


「雪ちゃん!也元のFCは、かっこよくないから、俺のS14の方が比べるもなくカッコいいよ。」


という風に飛び込んできたこの少年は、クラスメートの中村なかむら 忠秀ただひで


一言でいうとエロが歩いているような奴。


「あんたの、下品なS14と私の愛車(FC)を比べないでほしいな!」


「ウルサい!大体お前のFCには、GTウィングすら付いてねぇじゃあねぇか!」


「まあまあ、二人とも仲良くやろうよ。」


二人の間に入って落ち着かさせようとするが、二人の勢いは止まらない。


「しかないよ…。いつものことだから。」


背中まである青髪をなびかせて私の横に来る大人しそうな少女。


彼女は、宮ノみやのかわ ひじり


見た目通り大人しい娘だが、ハンドルを握ると性格が変わったのごとくアグレッシブな運転をするらしい。


「ミヤちゃんはクルマなに乗ってるの?」


「…インプレッサGC8。」


「私、GC8好きなんだ〜。」


「…そうなの?今度乗ってみる?」


「ホントに!ミヤちゃんの助手席に乗ってみたい!」


「…いいよ。」


「ありがとう!」


「「ああ、それ私(俺)が乗せるつもりだったのに!」」


声をそろえて叫ぶ美羽と中村。


「…仲直り。」


「出来たね♪」私と聖でクスクスと笑った。


「それで、雪ちゃんはホームコースは何処にするの?」


さっきまで美羽とにらみ合っていた中村がこちらを向く。


「うーん、うちから近いところは、いろは坂かなぁ。」


「いろは坂か。雪ちゃん、あそこは特に急勾配の峠だから気をつけなよ。」


「それにしても、いろは坂でAWを攻めるなんて、いろはの亡霊に間違われるじゃないの?」


「いろはの亡霊?」


「三年前までは、いろは坂でメチャクチャ速いAW乗りがいたのよ。だけど、ある日パタリといろは坂に現れ無くなったのよ。だから、いろはの亡霊って呼ばれるようになったのよ。」


「…頑張って腕を磨いたらいいよ。」


「そうだな。今日は金曜だし、いろは坂に走りに行くか?」


「良いわね。たまには関東一のジェットコースターステージに行くのも良いわね。」


「…じゅあ、いろは坂に12時に…。」


聖がちょうどそう言ったところで、7時限目を知らせるチャイムが鳴る。


「…おぃ、聞いたか。」


「ああ、今日奴らをつついてやろうぜ。」



あまりの楽しみに、7時限目の数学は全く頭に張らなくてずっとワクワクしていた。


キーンコン…。


「じゃあ、12時にいろは坂で。」


「…雪ちゃん。早く家に帰りたいでしょ。私のインプで送ってあげるよ。」


「ホント!!ミヤちゃん、お願い。」私は、聖について学校の駐車場に向かった。


「わぁ。GC8だぁ!」


目の前には、ブルーのインプレッサGC8。ノーマル風のフロントスポイラー。


赤の泥よけとゴールドのホイールが足元をスタイリッシュに見せる。


「かっこいいなぁ。」


「乗る?」


「イヤァ…。AWにまずは乗りたいから。」


「…じゃ、急いで帰ろうか。」


聖は、鍵をあけると運転席に滑り込む。


運転席も助手席もフルバケットシート。


イグニッションを回してエンジンをかける。


タコメーター、速度計などのメータが一度全部MAXまで針が振れる。


水平対向エンジン独特の低いエンジン音が辺りを包む。ゆっくりと国道に出ると、制限速度を守って自宅に向かって走る。


「スムーズだなぁ。」


「…そう?…運転していたらじょじょにうまくなるよ。」


「だといいなぁ。」


青いインプレッサは国道をさっそうと駆け抜けていった。




「ただいま~。お父さんAWは!?」


「あと5分ぐらいで来るらしいぞ。」


「やったね。」


「んっ?水平対向エンジンの音。友達も来てるのか?」


「うん、ミヤちゃんに送ってもらった。じゃあ、ミヤちゃんと話してくるから。」


ドゥドゥドゥドゥ


「…どうだった?」


聖はそう言って、インプレッサのカギを締める。


「あと5分ぐらいで来るって。…ミヤちゃん、エンジン切らなくて大丈夫なの?」


「…大丈夫。私のはターボタイマー付けてるから。」


5秒もしないうちにインプレッサのエンジンは静かに止まった。


「ほんんとだ。面白いね。」




「…消し忘れることが無いからね。……雪ちゃん、来たみたいだよ。」


国道から聞こえてくるエンジン音。



「あっ。AWのエンジン音!」


ドンドン近づいてくるAW11のエキゾースト音。



ウワァァァン


角を曲がり、ウチの前に滑り込んで来た一台のクルマ。


ガチャリとドアが開き、工場のオジサン(本山さん)が降りてきた。


「嬢ちゃん。完璧に仕上がったぜ。」


「オジサン、ありがとうございます。」

「お礼はいい。早く走ってきな。」


「ハイ!宮ちゃん。今から近辺を一周してこようよ。」


「…うん。じゃあ、…助手席にのるね。」


聖は、助手席に乗り込む。


雪のAW、運転席はレカロのバケットシートだが、助手席はノーマルシートになっている。



聖は、聞こえてくるエンジンの音に耳を傾ける。


AWに載っているエンジンは、ハチロクにも搭載されている名機、4A−GEUエンジン。


しかも雪のAWは、スーパーチャージャーモデル。


その馬力はノーマルで145馬力。




…うーん。エンジン音を聞いた聞いた感じでおよそ180馬力前後ってところかな。


…だけど、何だろこの感じ。


この車からヒシヒシと感じる違和感。


普通のチューンナップされたAWでは無さそう。



何か、凄そうなクルマかも。


聖は、AWの助手席に乗ってそう思った。




一方、雪とAWのファーストコンタクトは、大満足のものだった。



思ったように車が加速、減速をする。


持って行きたいところにハンドルを切るとその通りに車が曲がっていく。


やっぱり、私にはこのコしかない!



近所を一周した後、家の前に帰ってくる。



「ミヤちゃん、どうだった?」


「…うん。…クルマもいい車だし、雪の運転も、うまかったよ。」


こうも、誉められると、うれしい。



「…じゃあ、…夜にまた。」


インプレッサの運転席から顔をのぞかせた聖はそう言った。



「うん。じゃ、また後でね。」


それに答えるように手を振った聖は、アクセルを踏み込んで、タイヤを軋ませながら走り去っていく。




ボオォォォ プシュァン

気持ちよいウエストゲージ音を響かせて聖のインプレッサは、小さくなっていった。


じゃ、ご飯食べて夜に備えよーと。





数時間後の深夜12時。


いろは坂に4人の高校生の姿があった。


駐車場には、右端から真っ赤なボディに黒のGTウィングが目を引くS14シルビア。


白ボディに、カーボンボンネットがはえる、シンプルな仕上がりのFC3S。




ラリー仕様を思わせるブルーのインプレッサ。




そして最後に、白シルバーのツートンカラー、マフラー、ホイール、車高以外は、外見がノーマルのAW11。





「よし、みんな集まったな。」


中村は、メンバーを見回す。


「それじゃ、走るとするか。雪ちゃんは、初っぱなだからあまり無理しなくていいからね。」


「早く、走りましょ。」


「…同感。」


三人とも自分の愛車に向かって歩いていった。



「私たちも頑張ろっか。」


私は、AWに触りながらそう話しかける。



聖、美羽、忠秀の順番でコースインしていく3人。



私も、ゆっくりと後を追うようにコースインした。


いろは坂は、関東エリアきっての急勾配の峠道だ。


上りと下りで道が分かれているため、対向車を気にせず走ることができる。


と言っても初心者の私は、限界走行は危険すぎる。


まずは、クルマに馴れなくては。



私は、そう思い1本目をすませて、下りの入り口に戻ってきていた。



すでに、ほかの3人は、2本目に突入している。

私は、駐車場にAWを止めて考えていた。


「誰かうまい人がAWに乗って走ってくれたらイメージがわくんだけどなぁ。」


そこにちょうど、ど派手な黄色のランエボが駐車場に入ってきた。



「走りにきたのかな?」


AW11の目の前に斜めに止めたランエボから、金髪のちゃらっとした男が出てきた。



「思ったより少ねぇなぁ。彼女一人だけ?」


「は、はいそうですけど…。」



「思った以上にいろは坂のレベル少ないよな。」

なぜか、いろは坂をけなされた私はカチンときた。


「そうですか?」



「そうだね。いろはの亡霊だとか言うオカルトやろうを出してまで、いろはを守りたいもんかね。」



この男、いろは坂をさんざんけなす。


「彼女も、AWなんて型遅れのオンボロ車に乗らないでランエボに乗り換えな…。」



私に、腕さえあればいろは坂でこんなふかした男をブッちぎってやるのに。


悔しいが、私の腕は友人たちにさえ遠く及ばない。




「じゃあな、彼女〜。」


男がランエボに乗り込もうとした時だった。



「おい!フカしてんじゃないわよ。」


男も私も、そう言った人物を見る。



「あんたにランエボは、豚に真珠と同じね。」


長い黒髪をなびかせてAWの横に立った20代の女性。


整ったキレイな顔立ちの女性を見て、私はカッコいいと思った。


「おいおい、俺が誰だか知ってるのか姉ちゃん。」


「こんな小物なんて知らないわね。あと、AWをバカにしないでくれる?あんたの下品なランエボよりこのAWの方が数倍強い。」



「はっ。なんならオレと張ってみるか?もちろん、そのAWでな。」


「いいわよ。アンタが負けたなら、一生いろはに来るんじゃないわよ。」

女性は、一歩もいかずに男と話す。



「ふん、ふざけた女だぜ。」


男は、ランエボに乗り込んでエンジンをかける。



「ゴメンね。出しゃばったことして。」


黒髪の女性は、私をみて優しくほほえんだ。



「いえ!!そんなことありません。私もあんなヤツが大嫌いなんで。」


「そう?ありがとう。あなたの名前教えてくれる?」


「た、高瀬雪です。」


なぜか、私は緊張していて慌ててしまった。


クスッと笑って女性は答える。


「雪ちゃんね。私は、坂本さかもと 美幸みゆき。雪ちゃんのAW、借りてもいいかな。」「どうぞ、思いっきり走らさせてあげてください!」



なぜだか、坂本さんには、このAWを任せてもいいと思えた。


「ありがとう。…ふっ、やっとアナタも新しいヒトを見つけられたのね…。」



「えっ?何かいいましたか?」


「ん、何でもないわよ。じゃ、あの男を倒しましょうか。」


そう言った坂本は、運転席に乗り込む。



「助手席に乗ってもいいですか?」


「モチロン。」



もしかしたら、最高のポジションでいろは坂のダウンヒルバトルが見えるかも。



心を躍らしてAWの助手席の乗り込む。


坂本さんは、絶対上手い!


直感ですごいオーラを感じ取ることができる。


コアァァァ


AWのエンジン音が、いつもとは違う。


ランエボの右に並ぶ、AW11。



「この缶が地面に落ちたらスタートだ。」


「OK。いいわよ。」


男が空高く空き缶を投げあげる。




カツンッ



キュキュキュキュッ


二台の車はタイヤを鳴らしてスタート。




一車半ランエボが前にでる。


「へっ、口ほどでもないぜ」


「まあ、後ろから見らさせて貰おうかしら。」

次回は、謎のドライバー坂本とランエボの直接対決!!



いろは坂新たな伝説の幕開けになる夜だった。

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